2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

シンガポール通信ー香港のアートフェア参加2

ホテルアートフェアでは、ホテルの部屋をアートギャラリーとして使う。アート作品が到着するのを待っているところ。まだ、通常のホテルの一室である。(ベッドの上には、手持ちで持参した小型の作品を展示している。) アート作品が到着して梱包を開いている…

シンガポール通信ー香港のアートフェア参加

1月下旬にシンガポールで行われたホテルを使ったアートフェアにパートナーの土佐さんの作品を出展したが、先週末も香港で同じようなアートフェアがあったので、そちらにも出展した。今回参加したのは、Asia Hotel Art Fairと銘打ったアートフェアであり、シ…

シンガポール通信ー村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」5

先に述べたように、「ハードボイルド・・」における主人公である「私」は、老人によって人為的に作られた新意識核を用いた処理から普段行っている意識核を用いた処理へとスイッチを元に切り替える事ができなくなっている。そのことは、今後は「私」は新意識…

シンガポール通信ー村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」4

老人はこれ以上計算士の犠牲が出ないよう、主人公を使ってより安全な方式の開発を組織に隠れて行っている。そのためには、本来暗号化の際にのみ使われるべき新意識核の処理のスイッチを確実に元に戻すための手段が必要である。ところがその手段が、主人公を…

シンガポール通信ー村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」3

さてこの本小説のストーリーであるが、それは一言で言ってしまえば先に述べたように、主人公が堅く閉じていた自分の意識の核の部分もしくはアイデンティティをいかにして開放してやるかという、いってみれば「海辺のカフカ」と同様の主人公の成長物語である…

シンガポール通信ー村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」2

またこれもこれらの三つの作品に共通しているのであるが、その二つの世界における主人公は同一人物である。もう少し詳しく言うと、「ハードボイルド・・」の世界における主人公「私」は人間としての主人公の総体であって、「世界の終わり」の世界における主…

シンガポール通信ー村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」

さて「海辺のカフカ」の次は、同じく村上春樹の長編小説「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(タイトルが長いので、以下本小説と呼ぶ事にする)である。これも週末を利用して楽しく読み終える事が出来た。本小説は1985年村上春樹36歳の…

シンガポール通信ー村上春樹「海辺のカフカ」:登場人物の間の陰と陽の関係

その他にこの小説では、多くの登場人物を表と裏、陰と陽等の関係でつないでいる。そしてそれがこの小説の構成を複雑にしかつ面白くしている。以下、私の独断が入っており間違っている部分もあると思われるが、登場人物の間の関係を見て行こう。まず主人公田…

シンガポール通信ー村上春樹「海辺のカフカ」:ナカタさんとホシノ青年2

ホシノ青年は、トラックの運転手をしているいわばどこにでもいる青年である。別に大学を出たり高い教養があるわけではない。むしろ日本の底辺層にいる人間といっていいだろう。記憶力をなくし論理的な思考力をもなくしたナカタさんとホシノ青年がコミュニケ…

シンガポール通信ー村上春樹「海辺のカフカ」:ナカタさんとホシノ青年

この物語を田村カフカの視点から見ると、それは彼の成長物語であると指摘した。しかしこの小説は、種々の人物や世界の構成が表と裏、陽と陰などの形で関連し合っている。そしてそれが、幹だけを取り出すとある意味で単純なストーリーのこの小説の構成を複雑…

シンガポール通信ー村上春樹「海辺のカフカ」:主人公田村カフカ2

ソポクレスのギリシャ悲劇「オイディプス王」の主人公オイディプスは、誤って殺してしまった相手がテーバイの王ライオスであり、その跡を継いで自分が王位に就いた結果娶ったのは自分の母親である事をあるきっかけで知る。そして父親殺しと母親との近親相姦…

シンガポール通信ー村上春樹「海辺のカフカ」:主人公田村カフカ

「海辺のカフカ」、なかなかすてきなネーミングである。カフカと聞くと不条理の世界、重苦しい世界を思い浮かべるが、それに「海辺」という単語が付くだけで何か突き抜けた世界、明るい世界が頭に浮かんでくる。タイトルだけで読んでみたくなるではないか。…

シンガポール通信ー村上春樹の小説をもっと読むぞ

村上春樹の「1Q84」がなかなか面白かったので、もう少し彼の他の小説も読んでみようという気になった。先週末はチャイニーズニューイアー(日本で言うと旧正月)で帰国していた。この間はシンガポールではレストランなど閉まっている店が多く、単身赴任…

シンガポール通信ー村上春樹「1Q84」:牛河

「1Q84」は小説全体としては、何かしら邪悪な者が存在しており、それが1Q84の世界に種々の邪悪な事件を引き起こし、この世界を支配しようとしているもしくは破壊しようとしているという印象を読者に与える。ところが個々の登場人物を見ると、そこに…

シンガポール通信ー村上春樹「1Q84」:宗教法人さきがけ

いよいよこの小説最大の謎ともいうべき、「リトルピープル」とその手先もしくは実行部隊とでもいうべき宗教法人「さきがけ」について考えてみよう。宗教法人「さきがけ」がオウム真理教をモデルにして創作されているのは明らかである。さきがけは当初は普通…

シンガポール通信ー村上春樹「1Q84」:リトルピープル

ここまで読んで来てわかったように、1Q84に出てくる人物にはどうも「邪悪な存在」はいないようなのである。さきがけからリーダーを殺害した犯人を追跡する事を依頼された「牛河」や、リーダーのボディガードをしている黒服に身を包んだ二人組などの小悪…

シンガポール通信ー村上春樹「1Q84」:ふかえりと空気さなぎ

青豆と天吾の恋愛関係がこの物語の縦糸だとすると、それに対して何本もの横糸がからまっており、それがこの物語を複雑にするとともに、同時にそれに魅力を加えている。その中でなんといっても太い横糸は、謎の少女「ふかえり」であり、さらにふかえりとかか…

シンガポール通信ー村上春樹「1Q84」:青豆と天吾

ジョージ・オーウェルの「1984」に出てくるビッグブラザーと村上春樹の「1Q84」に出てくるリトルピープルが、対比する存在として描かれているのかどうかというのは、興味深い問題である。実は「1Q84」におけるリトルピープルの存在は、悪か善か…

シンガポール通信ー村上春樹「1Q84」

(以下の感想文は「1Q84」のネタばれが含まれていますので、まだ読んでいない方は注意して下さい。)私はあまり現代小説は読まないし、特にベストセラー小説はどちらかというと意識的に読まないようにしてきている。別に取り立てて理由があるわけではな…