シンガポール通信ー香港のアートフェア参加

1月下旬にシンガポールで行われたホテルを使ったアートフェアにパートナーの土佐さんの作品を出展したが、先週末も香港で同じようなアートフェアがあったので、そちらにも出展した。

今回参加したのは、Asia Hotel Art Fairと銘打ったアートフェアであり、シンガポールでのアートフェアと同様にホテルを使ったアートフェアである。シンガポールでのアートフェアでは一部屋を土佐さんの作品の展示のために借り切ったが、そうすると単独での出展ということになり、参加費も50万円程度かかる。その他の費用も考慮すると、どうも100万円以上の売り上げがないとペイしないという事がわかって来た。

当初は楽観的であったが、シンガポールの3日間のアートフェアでわかったのは、100万円売り上げるというのは大変であるということである。もちろん100万円のアート作品が一つ売れれば良いという考え方もあるが、ホテルアートフェアはどちらかというと手頃な価格のアート作品の展示即売会である。来場者もブティックで服を買うのと同様の手頃な感覚でアート作品を買える事を期待している。ということは、10万円もしくはそれ以下の価格でないとなかなか売れないという事である。
なるほど、アートの展示即売会にもいろいろな種類のものがあるという事がわかって来た。そこで今回は単独で出展するのではなくて、知り合いのシンガポールのギャラリーの展示に一緒に乗っかる事にさせてもらった。そうすると出展費も全体の出展費の一部を持つ事になるのでその分安くなる。もちろん、そうするとギャラリーが出展する他のアーティストの作品と同居する事になるので、自分たちのアート作品だけを宣伝するわけにはいかない。来るお客さんには、複数のアーティストの作品を公平に宣伝する必要があるわけである。

それにしてもやはりモノを売るというのは、なかなか大変である。これまでも、技術展などでデモを出展し、来場者に説明したりする事は何度もやってきたが、売るというのはお客にそれとは異なる接し方をする必要がある。技術展でのデモでは、来場者にこちらから積極的にアプローチして説明しても、受け入れてくれやすいところがある。相手も技術屋である事が多いし、技術の説明というのは聞いているだけでも楽しいものだからである。

しかしながらアートフェアの場合は、来るお客はべつにアートの説明が聞きたいわけではない。大体アート作品の好みは個人の趣向によるものであって、他人から説明を受ける事を嫌うお客も多いのである。自分の好みではないアート作品の説明を聞かされるとなおさらであろう。しかもただ見て回りだいだけのお客も多いのである。というよりは大半が、単に見て回っているだけの、いわばウインドウショッピングを楽しんでいる客であると考えられるだろう。

言ってみれば、客に対しては高級ブティックやブランドショップの店員のような接し方をする必要があるのである。具体的には、お客が来た場合はスマイルで迎えると共に、お客にアート作品を自由に鑑賞してもらい、その間は笑みを絶やさずしかし基本的にはお客とは距離をおいて接するという態度である。もちろん客から聞かれた場合には丁寧に答えたり、客が興味を示せば価格などのより具体的な情報を提示する事を行う必要はある。

しかしあまり積極的にお客にアプローチすることは、求められないというより好まれないのである。ブランドショップなどで、店に入ると早々に店員が近寄って来て何が買いたいのかを聞いてくる事がある。もちろんにこやかな態度ではあっても、あれをやられるとプレッシャーを感じてウインドウショッピングを楽しむ気持ちがなくなったり、さらにはもし良いのがあれば買おうという気持ちまでなくなってしまうというのは、多くの人が経験している事だろう。

もちろんこれらは接客業では常識なのであろう。しかしこれまで経験したことがない我が身としては、なるほどと大いに納得した事である。もう一つは「良いアート作品だな」というお客の気持ちと「買ってもいいな」という気持ちのその境界線がどこにあり、そしてその境界線を越えさせるには売り手はどうすれば良いかという点である。もちろんこれは私のような経験のない人間がうまくやれる話ではない。しかし、ギャラリストの女性が接客しているのを見ていると、その辺りがうまいと感じる。あまりごり押しするわけではなく、しかしながら同時に相手の気をひくような会話の進め方をしているなと感じる。

これを見ている時に思ったのであるが、釣りのテクニックに似ていないだろうかという事である。魚が寄ってくるまでともかくも辛抱強くじっと待つ。そして魚が餌をつついても少し待ってここという時にぐっとあわせ引きをする。このタイミングを逃すと近寄って来た魚を逃してしまう。アート作品を売る場合で言うと、価格を聞いて来たりして興味を示しているお客に対してもどうもこのタイミングが極めて重要なように思える。



私、土佐さん(右から2番目)と、一緒に展示販売を行ったギャラリストの女性二人。