シンガポール通信-トランプのメキシコ国境の壁の建設は愚策か:2

トランプが矢継ぎ早に打ち出している、難民受け入れ禁止や中東の7カ国の人々の入国禁止などの政策と、トランプがほぼ最初に打ち出した政策であるメキシコ国境における壁の建設を比較した場合、どちらが問題であろうか。

トランプは選挙中からこの壁の建設を目玉の政策として口にしてきたが、人々の多くは馬鹿らしい政策であると考え、冗談のように考えあまり真剣には取り上げてこなかった。そのため、トランプが大統領に就任して最初の政策としてメキシコ国境の壁の建設の大統領令に署名した際には、本当にそのような馬鹿げたことをやるのかといういわば呆れたという反応が返ってきたようである。

いまだに壁の建設の件は多くの人が真面目には考えていないようである。しかもその後上記の難民受け入れ禁止や中東の7カ国の人々の入国禁止という問題の多い政策が打ち出されたので、そちらの方に人々の関心は移ってしまい、壁の建設の件は一時的なのかもしれないが人々の話題にはあまり上がっていないようである。

私自身は、メキシコ国境の壁の建設という政策はもしかしたらそれほど馬鹿げたものではないのではと考えている。まず第一に、トランプが「美しい巨大な壁」などという表現を用いたので、人々は万里の長城のように延々と続く巨大な城壁のような壁を想像したのではあるまいか。

しかし別にそのような巨大な壁の建設をトランプが考えているかどうかはわからない。現在すでにメキシコとの国境には部分的ではあるがフェンスが設置されている。これらのフェンスは定期的なメンテナンスが必要だろうし、補強の必要のある箇所も多いだろう。したがってトランプのいう壁の建設のかなりの部分は、すでに存在しているフェンスをよりしっかりしたものに取り替えるという、より現実的な案になる可能性が大きいのではないだろうか。そうであれば壁の建設は天文学的な予算を必要とするものではないことになる。

もちろん壁は部分的には、巨大で人目をひくようなものになる可能性も大きい。何しろ派手好みのトランプである。人々を驚かせるような巨大な壁を部分的に作る可能性はある。しかし米国とメキシコの国境線のすべてにわたって巨大な壁を築くというのは予算面からしても現実的な案とは考えられない。

メキシコ国境のトランプの壁を建設するというトランプの政策を、ピラミッドの建設や万里の長城の建設に比較されるような愚かな政策であり、税金などで人々を苦しめるだけの政策であるという意見を聞いたことがある。

たしかにかっては、ピラミッド建設は民衆の生活を無視しエジプトのファラオの権力を誇示するためだけに行われたものであって、当時のエジプトの一般民衆に過大な負担を強いたものであると考えられていた。しかしながらその後の研究の進展により、ピラミッド建設は農作物の刈り入れが終わり人々が仕事のない時期になどに行われ、当時の民衆に仕事を与えるという面を持っていたということがわかってきた。つまりピラミッド建設は単なる無駄で人々に犠牲を強いる建設工事ではなくて「雇用を生み出す」という積極的な面を持っていたのである。

現在トランプは米国において雇用を生み出すことに積極的である。米国の製造業に米国回帰を呼びかけ、逆に米国から出て行こうとする企業には重税を課すといって脅したりしている。これは内向きの産業保護政策であると多くの人から非難されている。しかしながら、現在の行き過ぎたグローバリゼーションの流れは、それによって米国内にその流れに乗った人々と乗り遅れた人々の間の格差を生み出しているわけであり、ある程度まで企業に米国内での雇用確保を呼びかけることは別に間違った政策とは言えないのではないだろうか。

その意味ではメキシコ国境との間に壁を建設するという一見馬鹿げた政策に見えるトランプの政策は、米国人の雇用を生み出すという積極的な面を持っているわけで、現実的な予算案で行われる限りは、評価してもいいのではないだろうか。