シンガポール通信-アニメ「君の名は」

昨年11月から海外を転々とする生活をしており、飛行機での移動時間が多い。したがって飛行機の中で映画をビデオで鑑賞する機会も多い。実際に映画館に足を運ぶことは最近はあまりないが、飛行機の中で過ごす長時間は映画鑑賞にもってこいである(というより疲れてくるとメールを見たり読書をしたりするより映画鑑賞の方が気楽に行える)。ロサンゼルスからバンコックへ移動する飛行機の中で、最近話題になっているアニメ「君の名は」を鑑賞したのでその感想を述べたい。

「君の名は」は新海誠監督の制作になる長編アニメーション映画で、昨年8月に公開された。公開とともに大きな評判となり、昨年12月には興行収入200億円を突破し、現時点で宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」に次ぐ日本のアニメーションで歴代2位の興行収入となっている。そのうちに「千と千尋の神隠し」を抜いて歴代1位の興行収入を実現することも可能と期待されている。

さらには日本に続けて公開された中国や韓国でも大人気で、中国・韓国でも日本映画としてはすでに過去最高の興行収入を実現している。それに加え、4月からはカナダ・全米でも公開が決定しており、アジア以外の海外でも多くの観客を動員するだろうことが予測されている。どうしてこれほどまでに人気があるのだろう。

「君の名は」のストーリーは基本的には、すれ違いを重ねながらも最後はハッピーエンドに終わる若い男女のラブストーリーであり、いわばラブストーリーの定番ともいえるものになっている。しかしこれだけでは、これだけ多くの観客を動員することはできないだろう。これまでのラブストーリーになかった要素を入れた新しいストーリーになっているからこそこれだけの人気を集めたのだろう。

新しい要素としては、ラブストーリーがSFの一ジャンルであるタイムトラベルものと一緒になっていることがあげられる。主人公の男性の名は立花瀧、女性の名は宮水三葉、そしてこの二人は実は異なる場所だけではなく異なる時間に住んでいる。瀧は東京に住んでおり、三葉は瀧の澄んでいる時間から3年前の岐阜県飛騨地方の架空の町である糸森町に住んでいる。この異なる時間、異なる場所に住む二人が出会い、徐々に互いに恋愛感情を持ち始めるというのが「君の名は」のストーリーの基本設定である。

さらにそれに加え、瀧の住む現代から見ると3年前に地球に接近していたティアマト彗星の破片が糸森町を直撃し三葉を含めた当時の町民500人以上が死亡していたという新しい要素が加わる。したがって実は瀧が住んでいる現在から見ると三葉はすでに死んでいるのである。したがってこのストーリーは、瀧と彼の住む時間帯からするとすでに死んでいる三葉の間の時間を遡ったラブストーリーということになる。

そしてタイムトラベルもののSFの常套手段ともいうべき、主人公が過去へ遡って過去を変えることによって現在が変わるというやり方もこのアニメ映画では取り入れられている。すなわち瀧と三葉の時間を超えた純粋な愛が過去を変え、そのことにより彗星の破片が落下した時には糸森町の住民はたまたま行われた安全訓練のため安全な場所に避難しており、町は破壊されたが町民は助かったという結果に最後にはなるのである。

そして映画の最後ではさらにそれから5年後の東京に場面が移る。瀧は同じように東京で暮らしているが、それに加えて三葉も上京して東京で暮らしている。ともにかっての記憶は消え、誰かを探しているという記憶だけが残っている。そしてある日並走している電車の窓からお互いを見た二人が相手が自分が探している人であることに気づき、電車を降りて出会うところで映画が終わっている。

このように、すれ違いを重ねる若い男女の間のラブストーリーという単純な物語が、タイムトラベルもののSFと合体することによってストーリーが複雑化し、これまでにない新しい形のラブストーリーが誕生しているのである。これがこのアニメ映画がヒットしている基本的な理由であろう。しかしこのような複雑なストーリー構成にすると、鑑賞する側からすると解りにくいという欠点が普通は出てくるものである。それがこのように極めて多くの人に鑑賞してもらえ、喜んでもらえるのはどうしてなのだろう。

(続く)