シンガポール通信ー青森県立三本木高校の皆さんの来訪

今年は、年末年始の休日と一般の休日がうまくつながったこともあり、日本はほぼ何処も7日からの仕事始めのようである。私も久しぶりに10日間の年末年始休暇をとったので、なかなか仕事モードに戻すのに時間がかかってしまった。昨日、青森県十和田市にある三本木高校の生徒さんおよび先生方15名の訪問を受け、その対応に忙しくしたおかげでなんとか通常モードに戻す事が出来た。

三本木高校は青森県立の高校であり、県立高校でありながら中学・高校と一貫教育を行うユニークな高校として知られている。カリキュラムの詳しい事は聞きそびれてしまったが、早い段階で理系・文系に分けてクラスを構成し、将来の進路に合わせた教育を行っているようである。今回訪問されたのは理系のクラスに属する生徒さん達とのことであり、皆さん将来は医師になりたいとか薬剤師になりたいとか、ある程度明確な仕事像を持っておられるようであった。

まず私の方で、私の属する研究所であるInteractive Digital Media Institute (IDMI)の簡単な紹介を行った後、現在IDMIに勤務している日本人のうち当日都合の付けられた4名の方に、自分が行っている研究を紹介してもらった。(IDMIに勤務している日本人は現時点で私を除いて5名なので、ほぼ全員が出席できた事になる。また皆さんIDMIの中のCUTEセンタ—に勤務している。)私も普段は、これら日本人の研究者の人たちの行っている研究内容を十分に把握できているわけではないので、私にとってもそれを知る良い機会になった。

私が驚かされたのは、日本人の研究者の皆さんがいずれも大変ユニークな研究を行っている事である。日常私が話をするシンガポールの研究者は、いずれもある意味で大変固い研究を行っている人が多く、悪い言い方をすると面白みに欠けるところがある。その点、日本人の研究者の研究内容は、いずれも自分の興味・趣味を基本としながら、従来なかったものを作り出そうとする明確な意志を持って研究に取り組んでいる。そしてそれぞれがいかにもユニークなのである。聞いていて、日本人の創造性はまだまだ健在であると安心した。

その後、生徒さん達とのフリーディスカッションを行った。自分たちの将来を考え高校時代に何をすべきかがテーマの中心であったが、ここでも日本人の研究者達はいずれも「自分が好きな事をやる事が重要であり、そのためには高校時代には自分が打ち込めるものを見いだす事が大切」という意見であった。高校生の皆さん方はいずれもかなり刺激を受けたようで、「安定した職に就きたいと思っていたが、自分の好きな事を追求するという生き方に変えたい」という意見を何人かの生徒から聞いた。これを聞いていると、日本の将来は悲観したものではないという感じを強く持たされた。

もう1つ私が聞きたかったのは「東北大震災」をどうとらえているのか、そしてそれをどう乗り越えて行こうかということであった。三本木高校のある十和田市は東北地方ではあるが被災地からかなり離れている事から、揺れは大きかったものの地震の被害そのものはほとんどなかったとのことである。そのため、自分たちの生活には大きな変化はなかったが、被災地に近いため復興が遅々として進まないという情報が入ってくるため、それに対して自分たちが何も出来ないもどかしさを感じるという意見を述べる生徒が多かったのが印象深かった。



三本木高校の生徒さん達。皆さん神妙な顔をしてこちら側の研究者の発表を聞いている。シンガポールの日程もすでに4日目であり皆さんだいぶ疲れていると思われるが、熱心に発表を聞きまた自分の意見を述べてくれた。



佐藤さんの発表。佐藤さんはCUTEと共同研究している慶応の講師であるが、現在は数年間という予定でCUTEの研究者として勤務している。インターネットと車をつなぐ事により、新しいサービスを生み出す事を研究している。例えば車のワイパーが動いている情報をネットで集めると、どこで雨が降っているかを知る事が出来る。



末田さんの発表。末田さんは武蔵野美術大学を出て東大の博士課程に進み、在学しながら現在CUTEで働いている。スマートホンのGPS情報とFacebookなどへのアップロード情報を使って新しいサービスが出来ないか考えている。たとえば秋葉原あたりにいるユーザが写真を「秋葉原」という単語と共にFacebookに投稿すると、人々が秋葉原という地名でどのあたりをさしているのかが明らかになる。(ちなみに秋葉原は通称であり、正式の地名は外神田一丁目であるが誰も正式地名では呼ばない。)



これは北澤さんの発表。北澤さんは大阪のアート系大学を卒業後、CUTEでデザイナとして採用され働いている。いわゆるAR(Augmented Reality:複合現実感)の研究を行っており、スマートホンを使って見えないものを見えるようにする研究をしている。(例えばスマートホンのカメラを通して人の顔を見ると、何を考えているかがディスプレイに表示されるといったような。)



これは勝本さんの発表。勝本さんは慶応で博士課程を卒業した後CUTEで働いている。物作りにこだわり、ある機能を持ったものから別の機能を持ったものへと変換可能な新しいハードを作る事をめざしている。(ちなみにそのようなものの代表例はトランスフォーマーだろう。)たとえば雨傘に、それを振ると剣を振るときの音が出る機能を加える事により、雨傘としても剣としても(もっとも切れないけれども)使える「雨刀」というものを作り出したりしている。



発表終了後のディスカッションの様子。あまり意見が出てこないのではと危惧していたが、皆さん活発に意見を述べてくれた。



最後に全員そろって記念撮影。前列が私も含めてIDMIの研究者達。後列が三本木高校の生徒さんと先生達。