シンガポール通信-THE世界大学ランキング:2

ここ数年、東大・京大に代表される日本の大学が世界大学ランキングにおける順位を落としていることが、マスコミなどでも話題として取り上げられるようになった。特にその代表的なものであるTHE World University Rankingにおいて、2014年度まで東大が継続してアジアではランキングのトップにあったのが、2015年度にシンガポール国立大学(NUS)に首位を明け渡したことが大きな話題になった。

今年度は東大は、首位を奪回するどころかアジアで4位に順位を落としている。さらに問題は京大で、2014年度までは50位〜60位にとどまっていたのが2015年度に88位へと大幅に順位を落とし、今年度はさらに91位にまで順位を落とした。来年度は100位以内にとどまれるか否かという危機的な状況にあるといっていいだろう。そこで東大と京大に焦点を当てて最近のランキングの状況とランキングを改善するにはどうすればいいかを考えて見よう。

東大・京大を比較する対象としてシンガポールのNUSと南洋工科大学(NTU)を取り上げて、この4大学のランキングの変動をグラフにしたものを図3に示す。



図3 東大、京大、NUS、NTUのランキングの変動図


この図を見ると幾つか特徴的なことがわかる。ひとつは、2014年度までは東大はNUSより上位にあり、京大はNTUより上位にあったのに、2015年度に東大はNTUに順位を逆転され、京大はNTUに順位を逆転されていることである。次に、2015年度は東大・京大は大きく順位を落としており、そのことが上記の順位の逆転につながっている。

2015年に東大・京大が大きく順位を落としたのは、評価基準の変更(評価基準ごとの評価点の重み付けが変更になった)がありそれが東大・京大に不利に働いたのだと言われている。しかしながらNUS、NTUの順位は安定しており、この2大学に関しては評価基準の変更が順位に影響していないことを示している。

実は世界大学ランキングの上位の常連である欧米の有名校も、この評価基準の変更の影響は特に受けておらず、2014年度から2015年度にかけて安定した順位を維持している。逆に言うと、このことは東大・京大は評価基準ごとの評価点に大きなばらつきがあるため、評価基準の変更が大きく影響したと推測される。

そこで次に東大・京大とNUSの3大学の評価項目別の評価点の比較を行ってみよう。これを図にしたものを図4に示す。



図4.東大、京大、NUSの評価項目別の評価点の比較


評価項目は(1)教育、(2)国際的な知名度、(3)企業からの助成金、(4)研究、(5)論文の引用件数、及び(6)これらをまとめた全体の評価点である。これを見ると一目瞭然であるが、東大・京大の国際的な知名度が極めて低く、これが全体の評価点に大きく影響していることがわかる。NUSの国際的な知名度が96点とほぼ満点に近いのに対し、東大・京大ともほぼ30点とNUSの三分の一にも満たない評価点しか得られていないのである。

国際的な知名度は研究者や学生の間でどの程度知られているかが大きく点数に影響すると言っていい。複数人のノーベル賞受賞者を出している東大・京大が国際的知名度がNUSより大きく劣るということは、私たち日本人には少し理解しにくい部分もある。しかしながら、ノーベル賞と研究者や学生の間における大学の知名度は直接的には関係ない。

ノーベル賞は基礎研究の成果に対して贈られるものであり、小国であるシンガポールでは政府も大学人もそして一般の人々もノーベル賞にはほとんど関心がない。ノーベル賞の発表が近づくと日本であればマスコミが今回のノーベル賞受賞者の予測をしたりしてさわがしいが、シンガポールではまったくマスコミにも取り上げられない。

つまり、国際的な知名度というのは、ノーベル賞のような頂点の研究成果によって決まるものではなくて、大学の研究者が国際会議などでどの程度活躍しているかとか、海外の大学との連携がどの程度行われているかとかもっと身近な大学の活動で決まるものなのである。表4に示された国際的な知名度の低さを認識して、これを今後上げるにはどうすればいいかを検討することが、東大・京大(特にランキング100位から落ちそうな京大)の今後の大きな課題であろう。