シンガポール通信-世界大学ランキング再び:2

前回は最近発表されたTHE世界大学ランキングに関して、アジアの代表的な10大学のうち日本(東大、京大)、韓国(ソウル大、KAIST)の4校が2015年から2016年にかけて大きく順位を下げていることを図を交えながら示した。
さてそれではこれらの4大学を除いた残り6大学の順位変動はどうなのだろう。10大学の順位の年による変動を図3に示した。



図3 日本、韓国を除いたアジアの代表的6大学の世界大学ランキングにおける順位変動


この図を見ると、NTUが順位を年ごとに大幅にあげていることを除くと、いずれの大学もそれほど大きな変動はしていないことがわかる。つまりある程度安定した順位を維持しているのである。特に前回述べたように2015年から2016年にかけて評価方法が変わったにもかかわらず、その順位には大きな変動はない。

ということは日本、韓国以外のアジアの大学の順位が上がったというよりは、東大・京大の順位が下がったのである。NUSがアジアで首位になったのはある意味で「敵失」によるものだと言える。

このことを見るために東大・京大の当面の敵ともいうべきシンガポールの2大学であるNUSとNTUの順位の変動と東大・京大の順位の変動を取り出して比較してみよう。その結果を図4に示す。



図4 東大・京大とシンガポールの2大学(NUSとNTU)の世界大学ランキングの順位の変動


この図を見ると、2015年には東大の順位がNUSの少し上にあり、京大の順位がNTUの少し上にあったのが2016年には東大・京大とも順位を下げたために、東大はNUSに京大はNTUに順位で抜かれたことがわかる。再度言うようにNUSがアジアで首位に立ったのは東大が順位を下げるという「敵失」によるものなのである。

しかしこれらの結果は実は重要な意味を持っている。東大・京大に代表される日本の大学さらにはソウル大、KAISTに代表される韓国の大学は「評価方法の変更に対して弱い」のである。もっと具体的に言うと、種々の評価要素の評価点に大きなばらつきがあり、評価方法の変化いいかえると各評価点の重み付けを少し変えられると、総合点が大きく変化することを意味しているのである。

もっと具体的に言うと東大・京大さらにはソウル大・KAISTはこれまで教育・研究における世界の研究者の評判がよく、それに大きく依存していたのである。一方で産学連携による産業界からの資金の獲得は十分でなかった。このことによって、研究者の評判に対する重みが下げられ産学連携に対する重みが大きくなったことで総合点が下がり、それがこれらの大学の順位が大きく下がったことに結びついているのである。

総合大学でありながら、評価項目ごとの評価点に大きなばらつきがあるということは、決して褒められたことではない。図3に示したように、日本・韓国以外のアジアの6大学は評価方法が変えられても順位に大きな変動はない。このことはこれらの大学では、評価項目ごとの評価点に関していずれの評価項目に対しても安定して得点を挙げていることを示しているのである。

東大・京大に代表される日本の大学は(そしてもちろん韓国の大学も)評価項目ごとに評価結果に大きなばらつきがあることは認めて改善する方向に踏み出すべきなのである。「ランキングを政策方針や成果達成指標として安易に利用すべきでない」と言っている場合ではないことを認識してほしい。

そして最後にシンガポールの南洋工科大学(NTU)の順位に触れておこう。NTUは2012年には150位以下だったのが2013年にいきなり86位に顔を出すとその後毎年次々と順位を上げ、2016年には55位まで上がってきた。短時間でこれほど順位が上がるにはどのような施策をとっているのだろうか。実はTHEも含めて世界大学ランキングを発表している機関は、ランキングで上位に入るためのコンサルティングを行っている。

NTUは私立大学なのでコンサルティングに金を払うことに制限はない。明らかにNTUはかなりの金額のコンサルティング料金をTHEに支払うことによって、大学運営のどこに力を入れればいいのかに対するアドバイスを得、それを実行しているのだと考えられる。

これを批判する向きもある。しかしこれは間違ったことではない。THEはNTUの順位を上げるために恣意的におかしな評価点の重み付けをしているわけではない。そのようなことをすればTHEの世界大学ランキングに対する信頼性を揺るがすことになる。2015年から2016年への評価方法の変更も理にかなったものだと言える。

とするならばやはり日本の大学は、もちろん世界大学ランキングの結果に一喜一憂する必要はないけれども、その結果は謙虚に受け止め、ランキングを上げるにはどのように大学運営を変えていくべきかという問題に取り組むべきではなかろうか。

(なお、私の調べた結果では東大はアジアではいまだに3位を維持しており、7位に転落したという日経新聞の結果と異なる結果になっている。これに関してはさらに調査を行う予定である。)