シンガポール通信-2015年世界大学ランキング4

Times Higher Education社による世界大学ランキングに関して色々と論じてきたが、最後に異なる機関による大学ランキングに触れておこう。幾つかの機関から世界大学ランキングが発表されているが、そのうちよく知られているのがTimes Higher Educationによるものである。

もう一つよく知られたものとして、英国の大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ」が毎年発表しているQS World University Ranking(以下「QSランキング」と呼ぶ)がある。こちらの最近5年間のランキングを調べて、5年間の傾向やTimes Higher Educationのランキング(以下「THEランキング」と呼ぶ)との相違などを考えてみよう。

QSランキングに基づいて最近5年間のアジアにおける日本、韓国、中国、シンガポール、香港を代表するそれぞれ2大学のランキングをまとめたものを表1に、またそれをグラフ化したものを図1に示す。


表1 最近5年間のQS World University Rankingの変動


図1 表1を図にしたもの


この表・図からわかるのは以下のようなことである。

まず長期的に順位が上昇傾向にある大学と順位が下降傾向にある大学が比較的明確に分かれていることである。長期的に順位が上昇傾向にある大学としては、シンガポールの2大学であるシンガポール国立大学(NUS)と南洋工科大学(NTU)と韓国の韓国科学技術院(KAIST)がある。

NUSとNTUが長期的に順位が上昇傾向にあるのはTHEランキングでも同様なので、この2大学の研究・教育における活動が世界的に認められてきていることは間違いないといっていいであろう。特にNTUはTHEランキングでは過去5年間に100位以下から直近の55位へと急上昇しているし、Qランキングでも過去5年間に58位から13位へと急上昇している。そして今年はNUSは12位、NTUは13位と来年はベストテンを狙おうかという位置にまで上昇してきている。

私がシンガポールに移った2008年当時は、NTUは無名のどこにでもある大学に過ぎなかったのであるから、変われば変わるものである。多分NTUでは世界ランキングでの順位上昇を至上目的として大学運営が行われているのであろう。しかしこのことはその気になれば大学の世界ランキングを上昇させることが可能であることを示している。

世界ランキングが上昇すれば優秀な教員や学生を集めることが可能になり、また授業料の値上げなどの収入増加策もとりやすくなる。その結果としてさらに優秀な教員や学生のリクルートが可能になるという正のスパイラルが生じることになる。まさにNTUはそれを実行しているわけであり、同じアジアの大学として東大・京大も頑張るべきだということになる。

一方KAISTに関しては昨年まではTHEランキングにおいてもQSランキングにおいても順調に順位を上げてきていたが、今年はQSランキングに関しては上昇傾向が継続しているのに対して、THEランキングにおいてはこのブログでも述べたように順位を100位近く大幅に下げている。

評価基準が同じである限り順位が50位以上も1年に変動するということは考えにくいので、THEランキングでは評価基準の変更があったと考えられる。THEランキングのホームページを見た限りではそれに関する記述はないようである。

しかし競技において基準を変更するということはしばしば起こることである。例えばスキーのジャンプ競技においてスキーの長さやウェアはしばしが基準が変更される。日本選手が活躍している時に限ってそのようなことが生じるので、これは意図的に行われているのではと考えてしまう。どうもTHEランキングでは日本と韓国の大学のランクを下げるように意図的に評価基準が変更されたのではと疑いたくなる。

さてそれではQSランキングにおいて長期的低落傾向にあるのはどの大学だろうか。残念ながらそれは日本の2大学である東大・京大ともう1つ香港の香港大学である。東大・京大はTHEランキングにおいては昨年まではほぼ現状維持で今年のランキングで順位を大幅に下げるという結果となっている。THEランキングの結果とQSランキングの結果を総合すると、東大・京大は良くて現状維持で長期的には低落傾向にあると認めざるを得ないことになる。

一方で香港大はTHEランキングでも長期的に低落傾向にあるので、総合的に見てその地位が下降傾向にあると認めざるを得ないであろう。

とまあTHEランキングとQSランキングを総合的に見ると、東大・京大が世界大学ランキングで長期的に順位を下げつつあることは認めざるを得ないことになる。かたやNUSとNTUが猛烈な勢いで順位を上げつつあるということも認めざるを得ない。このままで行くと4、5年のうちに東大・京大が世界の中では地方大学の一つになってしまう可能性を持っているということである。

現在文部科学省を中心として日本の大学の世界ランキングを上げる施策が考えられているが、それは「大学の国際化」に焦点を当てているものに過ぎないようである。しかしこのブログでも論じてきたように、国際化の面で日本の大学が遅れていることは確かであるがそれ以外にも実質的な大学の研究の質(論文数や論文の引用数)が低下していることも確かなようである。

最近のノーベル賞受賞者数だけを見ると日本がアジアでダントツであることは間違いないが、これはかなり過去の研究投資・研究努力の結果であると言っていい。現在の世界大学ランキングにおける東大・京大に代表される日本の大学の長期低落傾向は未来の日本のノーベル賞受賞者の激減へとつながる危険性を秘めていると言えるだろう。これに対する危機感こそ現在持つべきものと言えるだろう。