シンガポール通信-プロ棋士が対局に将棋ソフトを不正使用?

将棋のトッププロの一人である三浦弘行九段が、対局中にスマホに搭載された将棋ソフトを使って不正をした疑いが浮上している。とうとう恐れていたというか、予期していたことが起こったという感じである。

ことの起こりは、三浦九段が対局中に何度も席をはずす行為が目立ったため、別室でスマホの将棋ソフトを使って将棋ソフトを使って次の一手に関する答えを得ていたのではとの疑いが持たれたものである。もちろんであろうが、本人は「別室で休んでいただけ」とスマホの使用に対する疑念を否定している。

ところが不思議なことに、同時に「疑念を持たれたままでは対局できない」ということで、第29期竜王戦の挑戦者に決まっていたのに、それを休場したいと述べたという。しかしながら休場届が提出されなかったため、日本将棋連盟側が12月31日までの公式戦の出場停止処分を課すことになったものである。

ある意味で、将棋ソフトがトップクラスのプロ棋士を破り始めた頃から、このような事態が生じるのは予想できたことではある。これは将棋の世界でも囲碁の世界でも同じかと思われるが、かっては将棋や囲碁の世界というのは、天才と言われる人たちがプロとなって勝負を争う世界であり、そこにはある種の「飛び抜けた天才だけで共有される神聖な世界」という雰囲気があったのではあるまいか。

一般の人たちからするとトップクラスの将棋や囲碁棋士は尊敬するべき対象であり、また当のトップ棋士たちも自分たちがエリートであるという感覚を持っていたのではあるまいか。そしてそのような神聖な世界であるがゆえに企業などがスポンサーとなってつき日本将棋連盟、日本囲碁連盟という組織が存続するという仕掛けになっている。これらの連盟はプロ同士の対戦をオーガナイズしかつ将棋や囲碁棋士を育成する機能も持った組織として世間からの尊敬も集めてきたのではあるまいか。

それが、将棋や囲碁のプロをそれが将棋ソフトや囲碁ソフトがトップ棋士を破るようになり、しかもそのソフトがスマホに載るようになり始めると、そのような世界やそこに属する人たちが持っていた神聖さあるいは神秘さがなくなってき始めるというある意味恐ろしい状況が生じるのである。

それは、一般人からすると聖なる戦いであった将棋や囲碁が単なる普通のゲームになり、スマホ上の簡易型ゲームとなんら異なることのないものになってしまうということを意味しているのである。そしてそれは聖域であり守られていた日本将棋連盟や日本囲碁連盟の存続そのものも危なくなる可能性があるということなのである。そしてまたスマホに載る将棋や囲碁のソフトがプロ棋士をしのぐのであれば、プロ棋士を見出し育成する場である日本将棋連盟や日本囲碁連盟の存続意義はあるのかという議論になる。

このことは私もこのブログで何度か論じてきた。しかしながらいまだに日本将棋連盟や日本囲碁連盟内部でそのような危機感が持たれているという感じがしないのはなぜだろうか。いやもっとありうるのは、連盟内部ではそのような危機感が共有され議論されているのであるが、外部には漏らさないようにしているのかもしれない。そのような連盟が持つ危機感が外部に漏れること事態が、人々の日本将棋連盟や日本囲碁連盟に対して持っていた神秘性・神聖性を破ることを恐れて極力漏れないように努力しているのかもしれない。

今回の三浦弘行九段の疑惑を持たれた行為は、それが真実であったか否かは実はどちらでもいいのである。将棋ソフトや囲碁ソフトがトッププロを破るという事実が現実になってきた頃から、一般の人たち誰もがその可能性を考えそしていつかはそれが現実になると薄々感じていたのではあるまいか。三浦弘行九段が対局中にしばしば席をはずすという行為が、対局を観戦していた人たちに彼がスマホ上の将棋ソフトを使って不正をしているのではないかという疑惑を生じさせたという事実そのものが重要なのである。そしてそれは、ソフトがプロ棋士を凌ぐようになった時代において、プロ将棋やプロ囲碁の存在意義を人々に問いかけているということなのである。