シンガポール通信ーシンガポールの教育体制とITE

先週ITE(Institute for Technical Education)を訪問した。講演を依頼されたので、その準備の打ち合わせのためである。ITEは日本でいうと、専門学校もしくは職業訓練校に相当するのではないだろうか。

ITEについて説明するためには、シンガポールの教育制度を知る必要がある。私もあまり詳しく知っている訳ではないが、すこしおさらいを。

シンガポールの教育制度は、初等教育(6年間)と中等教育(4〜5年間)が基本となっている。これは日本で言うと小学校および中学校と、高校の低学年までの期間に相当するだろう。その間にいくつもの認定試験があり、その成績によってその後の進路が決定される。

卒業後の進路は大きく分けて3つある。1つは大学に進学するコースで、その場合は準備期間として2年間のジュニアカレッジを経て大学に進学する。大学進学のためには、ジュニアカレッジ在学中に認定試験に合格する必要がある。

もう1つは、ポリテクニックと呼ばれる高等専門学校に進学し、3年間のコースを通して実学のスキルを身につけて社会に出るコースである。これは、日本の高等専門学校(いわゆる高専)に相当すると考えられる。

最後はそのまま社会に出るコースである。ITEは、これらの学生が社会に出る前に産業界が必要とする実学のスキルを学生達に身につけさせるために1992年に設立された学校である。先に言ったように、日本における各種の専門学校もしくは職業訓練校に対応していると考えられる。

違いは以下の点にあるのではないだろうか。日本の専門学校はいずれも私立であり、競争原理の元にその時社会的に人気のある職業に合わせて専門学校が設立・運営されていると考えて良いだろう。また職業訓練校は、どちらかというと転職の際などに新しいスキルを身につけるために活用されていると考えていいだろう。

これに対してITEの場合は、中等教育を修了した学生に国レベルで産業界が必要としている実務スキルを体系的に与えようと言う仕組みになっている事である。シンガポール内に3つのITEがあり、それぞれが1万〜1万5000人の学生をかかえている。多分最終的には、大学進学・ポリテクニック進学以外の中等教育修了学生はすべてITEに進学させる事を狙っているのではないだろうか。

国レベルで設立された専門学校だけに、シンガポールの産業界が必要としている人材を極めて組織的に教育することをめざしている。聞いてみると90近いコースが用意されており、これらのコースはいずれも産業界と密接に議論しながら選ばれたものだという。

シンガポールには製造業が少ないことを反映して、製造業に対応したコースは少ない。代わりに、サービス業に対応したコースが多いのが特徴である。ホテルの従業員に必要なスキルや、各種の商店の接客業に必要なスキルを養成するコース、さらには大学などの研究機関で研究者をサポートする技術者を養成するコースなどがある。

例えば、ホテル従業員を養成するコースでは、実際にホテルのロビーや客室を作って学生を教育している。またレストランの従業員を養成するコースでは、実際に外部の客にオープンになったレストランを経営しながら学生を養成している。

大変な予算が必要かと思われるが、そこは国が経営している専門学校だけあって、十分な予算がつぎこまれているようである。なるほどシンガポール株式会社と言われるだけあって、教育に関しても極めて組織的な教育手法を取り入れている。もっともそのことが、シンガポール全体を少し息苦しい社会にしているともいえるだろう。


ITEの外観。



セラピスト養成コースの様子。お客はITEの先生や学生達。



ITE内に設けられたホテルを模した施設の一室