シンガポール通信-杭州再訪

前回書いたように、現在6月の末までの一ヶ月、台湾・台北の国立台北大学に客員教授として滞在中である。その間を利用して、中国・杭州を二日間ではあるが訪れた。これは杭州杭州教育大学のパン先生(Prof. Zhigeng Pan)が招待してくれたためである。

パン先生は画像処理・バーチャルリアリティ関係の専門家で、この分野では世界的にも知られている。数年前までは中国では北京大学・精華大学などと並んで有名大学である浙江大学(これも杭州にある)に勤務していたが、リクルートされて杭州教育大学に移った。

杭州教育大学は名前の通り、これまでは教育者を養成するのが主たる目的の大学であったが、国からの要請もあり研究面も備えた総合大学に衣替えしようとしている。したがって、研究面で世界的にも知られているパン先生をリクルートしたのだろう。また移籍に伴って、通信とメディア関係の研究所を立ち上げてほしいとの依頼もあったため、パン先生としても新しい研究所立ち上げという仕事に魅力を感じたのであろう。

パン先生とは、10年以上前に日本で開かれたバーチャルリアリティ学会で知り合ってその後交流を続けているので、10年以上の仲になる。一時はパン先生が移った大学で立ち上げを依頼された研究所に、私にも参加してマネジメントを手伝ってほしいとの依頼がパン先生からあった。そのため、シンガポールの後は中国かと私自身覚悟を決めていた時もあった。

しかし幸か不幸か中国と日本との関係が悪化したため、この話は立ち消えになった。またパン先生からの連絡も途絶えがちになったので、新しく移った大学での彼の立場もなかなか大変なのだろうと想像していた。

それがほぼ1年ぶりにメールが来て、杭州教育大学でワークショップを開くので講演者としてきてほしいとの招待である。新しい大学での彼の立場もやっと確立して、ワークショップを開くだけの余裕ができたという事であろう。

パン先生との関係もあって、杭州は何度も訪れたことがある街である。杭州浙江省省都であり人口約900万人、中国では北京・上海に次ぐ大都会である。かっては中国が宋の時代には南宋の首都があり、当時でも人口100万人以上で世界最大の都市と言われた事がある。また付近には風光明媚な事で有名な西湖がある。

しかしながら私が良く訪れていた4、5年前まではどこか地方都市の面影を残した街であった。時間も上海などと比較するとゆっくり進んでいたような気がする。それが今回訪問すると、高速道路が街の周囲と街の中に建設され、また地下鉄の建設も進んでいる。街の中には近代的なビルが新しく建設され、また郊外には杭州教育大学などの大学や関連企業が集積した広大な文教地区が整備されている。

全く違う街に来たのかと思わされるような相違である。それはそれで良い事なのだろう。しかしながらそれに伴い中国の最近の悪い傾向も受け継いでいる。なんといっても最悪なのは、北京などで悪名をはせているスモッグが杭州でも日常的に見られるようになったことである。日中でもどんよりともやがかかったような状態で、視界は数キロしかない。太陽ももやを通してみたような感じである。いわゆる晴天というのはほとんどないとのことである。

高度成長期にある中国ならではの現象なのかもしれないが、このような環境に住む人たちの健康が気にかかるところである。中国政府はやっきいなってスモッグの解消を目指しているようであるが、なかなか難しいとのことである。その理由の一つがここ数年で車が急激に増加した事が上げられるだろう。

かっては杭州の市内は自転車やバイクでの通勤・通学の波が特にラッシュ時には見られたものである。それが自転車に乗っている人を見かける事が大幅に減った。バイクに乗っている人はまだ多いとはいえ、これも以前を考えると大幅に減ったと言えるだろう。代わりにみんなが乗用車に乗るようになったのではあるまいか。

杭州市内を横断している新たに建設された高速道路は一日中車で渋滞である。しかも数年前までは古い車が多かったのが、その大半がほぼ最新型の乗用車である。メルセデス・ベンツBMWなどの車が、日本車と同じようにそしてそれ以上の割合で走っている。しかもいずれも車種としては高級車が多い。確かにこれを見ていると中国が豊かになったというのが実感される。



これは初日のワークショップの会場である大学。大学名がZhejiang University of Communication and Mediaという通り、コミュニケーションとメディアの研究・教育に特化した大学である.このような大学が中国に設立されているということは、いわゆるメディア研究に中国が力を入れているという証なのだろう。



初日に行った講演の後で司会の女性(実はパン先生の奥さんで浙江大学の准教授をしている)から記念品をもらっているところ。



初日のワークショップが終わったところでディナー。向かって右からパン先生、CGで有名な東大の河口洋一郎先生、私、私のパートナーである京都大学の土佐尚子。パン先生と前回会ったのは3年前であるが、その時と比較して髪が白髪になっているのに驚かされた。最近の政治面での出来事を見ていても分かるが中国は大変政治的な国である。大学内部でも政治が大きな影響力をもっているとのことである。大学を移ってからパン先生の新しい大学での地位が確立するまで、いろいろとあったのだろう。



二日目はパン先生の勤務先の杭州教育大でのワークショップが行われた。これは私の講演風景。前回来た時は杭州教育大のキャンパスは市内にあったが、今回は市外の文教地区に移転していた。いかにも中国を思わせる新しい巨大なキャンパスである。



ワークショップの後で西湖のほとりにある中国芸術大学を訪問した。ちょうど年に一度の学生の作品の展示会に出くわして、学生の作品を見る事ができた。全体に日本の美術系の大学の方が進んでいると思わせる展示会であるが、一点、建築関係の学生の展示は極めてレベルが高く日本の芸術関係の大学の水準に方を並べるもしくはそれを凌駕しているという印象を持った。東大の河口先生によると日本の芸術系の大学を定年で退官した先生を何人か招聘し学生の指導に当たらせているとの事である。改めて中国の学生の吸収力のレベルに驚かされる。左から河口先生、私、同じく招待されたProf.Alexei Sourin(シンガポールのNTUの先生)、案内してくれた中国芸術大学の宋建文先生。