シンガポール通信-トランプが行おうとしているのは「政治のビジネス化」である:2

それではトランプ米国大統領が矢継ぎ早に表明している新しい政策の幾つかを取り上げて、彼が考えている政治のビジネス化とはどのようなものかを考えてみよう。先に結論を言っておくと、彼が表明している新しい政策の幾つかは結構まともなものであり、また他の幾つかは奇妙に見えてもそれなりに意味を持っているものであることがわかる。

まず最初に取り上げるのは、彼が自動車産業などの製造業に関わる企業に対して米国内にとどまり雇用を確保するよう強く要請していることである。前回述べたように、自動車産業などの製造業の多くは、少しでも安い賃金の労働力を求めて早くから海外に製造拠点を移してきた。これ自身は最大利益を追求する企業として当然の行為ではある。そしてその行為こそが、現在グローバリゼーションと呼ばれている地球規模の動きを引き起こしているのである。

しかしながらグローバル企業といえども、自社の利益追求ばかりではなくそれが属している国の国民を幸福にするという、より上位の使命も持っていることを忘れてはならない。ともすれば利益追求第一の掛け声の基にそのことが忘れさられ、自動車産業などの企業の多くが自国の工場を閉鎖して多くの雇用を無くしてきたというのは事実である。このようないわば行き過ぎたグローバリゼーションに歯止めをかけるという意味で、企業に対して米国内での生産拠点の確保と雇用の確保を米国政府として依頼するというのは、極めてまっとうな政策ではあるまいか。

もっとも、自動車企業に対して海外に拠点を移すようなら法外な税金をかけるというような、脅しともとれる言い方で企業に要請をするというトランプの姿勢は、たしかに彼が米国大統領という大きな権限を持っている地位にいるだけに問題が大きい。このことが彼が米国大統領としてふさわしくないという非難を生んでいるのはよく理解できる。

しかしながら、言っていること自体は極めてまともなことではあるまいか。むしろこれまでの大統領がこのような依頼を行ってこなかったということの方が奇妙に見えて来ないだろうか。つまりトランプはここでは、米国の政策の中に行き過ぎた企業のグローバリゼーションの是正を行うという、ビジネス的感覚を取り入れ政治とビジネスの融合を図っているということができないだろうか。

もちろんこれは行き過ぎれば、内向きの政策であるとか保護貿易につながるというような問題点を含んでいる。したがってどの程度まで強く要請するのかに関しては、優れたバランス感覚を要求されることは事実である。トランプを非難する人たちの多くは、彼がそのような優れたバランス感覚を持っているはずはないと思いそしてそれゆえに彼を非難するのだと思われるが、その結果が見えてくるにはもう少し時間がかかるのではないか。それまでは彼の姿勢を注視しておくというのが正しい行為なのではないだろうか。

またトランプの政策が間違っていないことは、彼の米国内で雇用を確保して欲しいという要請に対しすでに自動車産業の企業の幾つかが米国内での生産を増強するという形で対応しようとしていることですでに証明されているということもできる。自社の利益追求を第一とする企業がそのような態度をとるということは、米国政府からの優遇措置を期待していることはたしかにせよ、トランプの要請が荒唐無稽なものではなくビジネスの観点からもリーゾナブルなものであることを示しているのではあるまいか。

また日本のソフトバンクなどの米国以外以外の企業も、トランプの要請に応えて米国内に進出を計画しているという最近のニュースは、トランプのこの政策が企業からも魅力あるものに見えるということを示しているのではないだろうか。

そして何よりもニューヨークダウが2万ドルを突破し過去最高を記録しているという事実が、投資家がこのトランプの姿勢を歓迎していることを示しているのではないか。つまり人々は表向きは、トランプの歯に衣を着せぬ言い方に代表される彼の粗野な言動を不快に思い非難していても、その裏では彼がこれまでにない政治とビジネスのバランスを実現しようとしており、それをビジネスの側面から見ると大きなビジネスチャンスを生む可能性があることを直感的に理解しているのではあるまいか。

(続く)