シンガポール通信-トランプはなぜ人気がないのだろう?

12月下旬のニューヨークでの土佐尚子のアート作品の展示に続いて、1月上旬はシンガポールでの展示を行った。それを終え、現在はロサンゼルスに来ている。ULCA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)での展示を行うためである。シンガポールやロサンゼルスでの展示に関してはまた別途書く予定であるが、まずは米国の新大統領ロナルド・トランプについて書くことにしよう。

トランプの米国新大統領就任式は、ご存知のように1月20日ワシントンにおいて行われた。ワシントンとロサンザルスは数時間の時差があるとはいえほぼ同じ時間帯であり、テレビで大統領就任式のほぼ全体を見ることができた。またこちらの人々の反応も知ることができた。米国大統領就任式といういろいろと話題になっているイベント及びそれに引き続く出来事の際に米国に滞在できたのはある意味幸運であると考えている。

さてこちらの人のトランプに関する意見であるが、いわゆる知識層と呼ばれる人々の間では予想以上にトランプは不人気である。いろいろな人にトランプをどう思うかを聞いてみても、だれもが「もうあの男にはうんざりだ」という口調で非難する。なかには「彼は早晩暗殺されるのではないか」などと不気味な言葉を吐く人さえいる。

なぜトランプは知識層の間でこのように嫌われるのだろう。それは多分彼の粗野・粗雑な物の言い方、表情、さらには身振りが大きく影響しているのではないだろうか。同じようなスピーチの内容でも、オバマ全大統領に代表されるような知識人はもっとソフトに衣で包んで少なくとも耳に不愉快に響かない言葉使いをする。それがトランプの場合は、よく指摘されるように小学生レベルの単語・文法を使ってダイレクトに断定口調でしゃべる。このような口のきき方がどうも知識人たちには不愉快に聞こえる、そしてときには我慢が出来ないらしい。

さらにそれに加えて、彼の顔の表情も嫌われる理由であろう。これもまた前オバマ大統領に代表されるような知識人と呼ばれる人たちは、スピーチの際には常にかすかな微笑をたたえながら、人々の心に訴えるような顔表情を作りつつ喋るのが通例である。それがトランプの場合は、苦虫をかみつぶしたような表情で、かつ議論で相手を徹底的にやり込めるときにするような表情でスピーチを行う。どうもこれも知識人の嫌う表情のようである。

さらには、彼はよく聴衆の誰かを指で指し示して「あんたそう思うだろう」とか「いやあんたは私は嫌いだ」という言い方をすることがある。人を指で指し示すというのは、欧米圏では人を物扱いするジェスチャとして大変嫌われる動作である。このような動作をしばしばすることもトランプが知識人から嫌われる理由であると思われる。

このような彼の物の言い方、そして表情作りは彼の本来のものなのか、それともある程度意識して行っているのかということも話題になっている。知識人の多くは彼の物の言い方や表情は彼本来のものであると考えているようである。だからトランプは低俗だということになり、世界第一の国である米国がそのような大統領を持つのは恥であるという結論にたどり着くのであろう。

しかし私の思うところでは、彼のものの言い方や表情は米国の中間層以下の人たちを対象に「強い大統領、マッチョな大統領」というイメージを送ることを明らかに意識していると思われる。以前にも書いたが、米国の西部開拓を含めた歴史の中では、知識を持った頭のいい優男より、少々粗野であっても強い意志と力を持ち人々を引っ張っていける強い男・マッチョな男が好かれてきたのではないだろうか。

どうも西部劇の人気後退とともに、そのような強いマッチョな男が米国を代表する男だというイメージが特に知識人の間では廃れていったのではないだろうか。もっともそのようなイメージはまだまだ米国の中間層以下の人たちの間では健在であり、そしてそれが今回のトランプ大統領誕生につながったのではないかという気がしている。

と同時に、彼がビジネスの世界で成功体験を積み重ねてきた男であることも忘れてはならない。ビジネスの世界でも、あいつは低俗なやつだなどと思われてはある程度以上の成功は望めないのではないだろうか。したがってビジネスの世界ではトランプは低俗なビジネスマンだとは思われていないということなのではないか。

私は彼を政治家というよりビジネスマンとしてみるべきだと考えている。それでは彼は米国の政治をどのような方向にもっていこうとしているのだろうか。それは一言で言えば「政治のビジネス化」ではないかと私は考えている。

(続く)