シンガポール通信-ワールド・トレード・センター観光

ニューヨーク滞在中訪れた場所でもう一つ印象に残っているのは、ワールド・トレード・センターWTC)である。誰もが知っているように、かってのWTCは、2001年のアメリ同時多発テロいわゆる9.11で崩壊した。私もWTCに航空機が突入するニュース映像を何回も見て、このようなことが実際に起こるのだと大きなショックを受けた記憶がある。

それ以降、ここまで大きなテロ事件は起こっていないというものの、アラブ諸国ではテロは日常茶飯事のように起こっており多くの人命が失われている。また先進諸国でもフランスでのテロに代表されるように、いつどこでテロが起こるか予測し難い状況になっている。その多くはイスラム国(IS)などのイスラム過激派によるものであるが、それ以外にも北朝鮮がミサイル開発と発射実験によって欧米諸国に対して挑発を続けているなど、世界はまだまだ不安定な状態にある。

そしてそのような状態の中で生じた、英国においてEU離脱いわゆるBrexit国民投票により決定したことと米国の次期大統領にこれも国民投票によりトランプ氏が選出されたことは、21世紀が政治的により不安定な時期に突入するのではということを予感させてくれる。

それらのことはまた別に考える必要があるけれども、そのような21世紀を予感させた事件の場所としてのWTCは私もぜひとも一度訪れたいと考えていた場所である。訪れた時間は夜も9時を過ぎていたがまだまだ多くの観光客が訪れており、この場所に対する人々の大きな関心を示していた。

かってのWTCビルが建っていた場所は、ノースタワー・メモリアルおよびサウスタワー・メモリアルと名付けられた二つの池として残されている。池の周辺には9.11のWTC崩壊に伴う犠牲者の名前が刻まれており、犠牲者への哀悼を示すとともにテロに対する抵抗の気持ちを表明しており、一つの聖地としての存在感が感じられ、感慨深かった。

ただ一つ少し違和感を感じたのはすぐそばに、大規模なショッピングセンターがあることである。REISS Westfield World Trade Centerと名付けられたセンターは、外見は広島の平和公園の「原爆死没者慰霊碑」を思わせるような形をしており、9.11の犠牲者の冥福を祈ることを目的としているように見える。また内部も照明などは厳かな雰囲気が出るように工夫をしてあり大変に美しい。しかしながらショッピングセンターであることに変わりはない。

広島の原爆ドームのすぐそばに大規模なショッピングセンターがあることを想像すると、私たち日本人は聖地にショッピングセンターを設けることに対して抵抗感を持つのであるが、これが日本と米国の文化の違いだろうか。



ノースタワーメモリアル。9.11で崩壊したWTCのビルの形をそのまま池としてある。また周囲には犠牲者の名前を刻んである。



9.11メモリアルと名付けられたミュージアム。中にはWTCの遺品などが展示されており、入りたかったが深夜にもかかわらず多くの人が入場のために列をなしており、残念ながら今回は入ることを諦めた。



ノースタワー・メモリアル越しに4ワールドトレードセンターを眺める。かってWTCビルがあった場所を取り囲んで6つの新しいWTCビルが建てられる予定であり、現在そのうち3つが完成している。



ワン・ワールドトレードセンター。新しいWTCビル群の象徴的な存在でよく知られている。現在西半球で最も高いビルである。



REISS Westfield World Trade Centerの外観。慰霊碑を思わせる外観をしている。



その内部。照明は荘厳な感じになっているが、実際にはショッピングセンターであり、WTC跡地に大きなショッピングセンターがあるのは日本人としては違和感を感じる。