シンガポール通信-トランプは大統領として力を発揮できるか?

ドナルド・トランプが次期米国大統領に選出された今回の米国の大統領選挙の特徴は、米国人がこれまで大統領などの国を牽引していくべきリーダーに求める理想とする人物像が、これまで通例であった知識層を代表する人物ではなくて、言動は上品ではないが強靭な肉体を持ち強いリーダーシップを持つ人物、いわゆるマッチョな人物を選択したことだろう。

マッチョな人物というのは、実は米国の求める理想とする人物像のもう一つのものであることは、これまでの歴史からも明らかである。マッチョの代表であるシュワルツネッガーいわゆるシュワちゃんは、カリフォルニア州の知事を無事勤めおおせたし、米国大統領でもロナルド・レーガンは、著名な映画俳優としての彼の経歴が彼を米国大統領に押し上げたことは明らかであろう。その後彼がテレビにおいて司会やCM出演で米国の人々の間で広く知られたことも、トランプの経歴と似ている点がある。

もっとも、レーガンの場合はカリフォルニア州知事を務めているから、全くの政治経験がないというわけではない。その意味ではたしかに全く政治経験のないトランプがいきなり米国大統領に選出されるというのは人々にとって驚きであったのかもしれない。もっとも日本でも、テレビタレントやスポーツ選手などの国民に広く名前が知られている人物が、何の政治経験もないままに国会議員に選出されることはよくあることではあるまいか。

もっともそれらの人々の大半が、政治経験のないために国会議員に選出された後の政党や国会での活躍の機会が制限されていることは事実であり、タレントやスポーツ選手が大臣やさらには首相になるというのは日本では難しいのかもしれない。それは日本が大統領を持たず、いきなり国民の投票で国のトップである大統領を選出するという仕組みを持たないという、システムの問題ではないのだろうか。

日本で政治のトップを選挙で選べる仕組みの代表的なものとしては、知事選がある。その代表例である東京都の都知事の選挙は、東京都が日本の中で大きな影響力を持つことを考えると、米国における大統領選挙のスモールバージョンと言えるかもしれない。

そして都知事としてはこれまでも、タレントで作家である青島幸男や作家である石原慎太郎などの有名人が都知事に選出されてきた例がある。もっとも青島幸男石原慎太郎都知事になる前は国会議員を経験しているから、政治経験はそれなりに持っている。ただ青島幸男石原慎太郎も国会議員時代は話題になる発言はあったとしても、実際の活動の機会は極めて限られていた。それが東京都知事となり、東京都を統治する大きな権限を持ってからは、東京都知事としての力を発揮し、評価されるような成果を出したことも事実である。

つまりタレントや作家出身者であっても、国会議員の一員としては活躍の場が限られていても、東京都知事のようなある組織のトップになればその人がリーダーとしての力量を持っていればそれを発揮できる場合が多いことは、これまでの歴史が示しているのである。いやむしろ、まずは国会議員に当選し特定の政党に属してその政党の中で活動と成果を一つずつ積み重ね、大臣やあわよくば首相を狙おうという大半の国会議員が歩んできたキャリアの積み重ね方は、国会議員としての生き方はうまくなるかもしれないが、首相のような一国の指導者にふさわしい人物を生むには適していない可能性が大きいのではあるまいか。

これは、大企業に就職しサラリーマンとしての出世の階段を一段ずつ登って、なんとかそのトップである社長に出世した人たちの多くが、企業の舵をとる社長としてはごくごく平凡な力しか発揮できなかったり、さらには企業統治の面で大きな過ちをする例が多いことからもわかるのではあるまいか。

トランプはたしかに政治の経験はない。しかしビジネスマンとしては、親から引き継いだとはいえトランプ王国と言われるビジネス集団を継続しさらには発展させてきた実績を持っている。彼が色々と非難されることの一つは、再度いうけれども彼がビジネスマンでありビジネスでの成功経験はあるけれども、政治における経験がないことである。そしてマスコミや識者たちは「ビジネスと政治は違う」そしてさらには「トランプは政治をビジネスとして考えている」ということを理由に、政治経験のないトランプの大統領としての力量を疑問視するのである。

しかし政治とビジネスは本当に別のものだろうか。