シンガポール通信-トランプは米国でどう受け止められているか

トランプ氏の米国大統領就任まで一ヶ月をきった。色々と日本でもいい意味でも悪い意味でも話題になっている彼の大統領就任に関して、米国そしてニューヨークではどう受け止められているのだろう。

日本では、いまだに米国ではトランプ氏への反感が根強く、彼の大統領就任に対する反対運動が活発に行われているという報道がなされている。今回ニューヨークに2週間ほど滞在するので、その辺りを肌で感じてみようというのも今回のニューヨークへの旅の一つの目的でもあった。

結論から言うと、一般の人々やマスコミには、すでにトランプの大統領就任は規定の事実として受け止められているというのが、私の受けた印象である。トランプの大統領就任そのものを議論する時期は過ぎ、現在では彼が閣僚に選ぶ人たちの経歴の紹介やそれらに関する議論や、トランプがどのような政治をしようとしているのかに関する議論などがテレビ番組などを見ている限りマスコミの興味の中心になっているようである。

今回の大統領選で最も注目されたのは、彼が選ばれることを予測したメディアはほぼ皆無であったことであろう。彼の歯に衣着せぬ言い方、既存のメディアの報道に対する攻撃姿勢、そしてまたオバマ現大統領や大統領選で戦ったクリントンに代表される理想主義・知性主義をあからさまに攻撃し大衆に訴えるポピュラリズムなどは、マスコミの最も嫌うものであり、すべてのマスコミはトランプのような人間に人々が投票するわけはないと最初から決めてかかっていた節がある。

日本の大手のマスコミもそうであるが、米国の大手のマスコミも実は社会の上層部の一部の知識層を相手にし、知識層の人々の意見を反映して記事を書いてきたのが本当のところであろう。そしてそのことは、大手のマスコミの発信する情報が社会の大半を構成する中間層の人々の意見を反映したものではないということが、はからずも今回の米国の大統領選挙の結果から明らかになったのではあるまいか。

トランプがあからさまに女性を対象とした性的な発言、言い換えると女性を蔑視した発言を繰り返してきたことは、マスコミからは彼の知性の少なさ下品さであるとして攻撃されてきた。そのことが彼が米国大統領にふさわしくないという考えに結びつき、そしてそれがマスコミが反トランプで一致した理由であろう。

しかし考えてみればトランプの女性蔑視の言葉の大半はロッカールームのような私的な場所で話されたものである。トランプ自身も「それはロッカールーム・トークである」という言い方をしてきた。しかしマスコミは私的な場所だろうが下品な言葉を吐く人間は大統領にふさわしくないと決めてかかったのではないだろうか。

しかし大半の男性は自分の欲望面では女性を性的な対象としてみており、そして女性にもてたいと考えているのではなかろうか。もちろんそれを公的な場で公にすることはその人の人格を疑われることにつながるだろう。(もっとも日本では国会議員などの中にもそのような言動に及ぶ人がいるのは事実であるが。)しかし知識階級と言われる人たちの間でも、男同士での飲み会などではそのような会話をすることは珍しくないし、労働者階級の人たちの間では日常茶飯事であろう。

それはごく普通の、人間の欲望の発露ではないのだろうか。もちろんオバマ現大統領に代表されるような本当の意味での知識階級の人たちは、そのような欲望を抑え込み私的な場でもそのような発言をしないような訓練を積んでいるのであろう。マスコミはそれが当たり前と考えてきたのではあるまいか。しかしのような欲望を抑え込むことは簡単なことではない。

抑え込むことがストレスにつながり、ストレスが高じた挙句深刻な犯罪を引き起こすというのは、私たちがマスコミのニュースでよく見かけることではあるまいか。その代表例がヒラリー・クリントンの夫でもと米国大統領のビル・クリントンがモニカ・ルインスキーと性的関係を持つという、問題を引き起こしたことであろう。これをトランプのいわゆる「ロッカールーム・トーク」と比較すると、ビル・クリントンの引き起こしたことは比較にならないほど重大な問題ではないだろうか。