シンガポール通信-QS世界大学ランキング

Times Higher Education (THE)による世界大学ランキングについて論じたので、ついでにもう一つの世界大学ランキングであるQS社による世界大学ランキングの最新の結果に関しても見てみよう。QS社は、正式名はクアクアレリ・シモンズ社という英国の大学評価機関である。Times Higher Education(THE)とは2009年まで共同して世界大学ランキングを発表してきたが、2010年以降は独立してランキングの発表を行っている。

THEが研究や教育における教員や研究者の評価という主観的な評価基準の重みを減らし、教員あたりの産学連携収入などの数値化できる評価基準に重みを移してきているのに対し(このため前回述べたように、THE世界大学ランキングでは東大や京大などの日本の代表的大学のランクが2016年に大幅に下がっている)、まだ主観的な評価の重みがかなりの比重を占めている。

このため、THEでは圏外であった大阪大学(なんとTHE世界大学ランキングの順位は、251位〜300位という、国内における東大・京大と比較した評判に比較すると考えられないような低順位である)が50位〜60位という高順位にランクされているという結果が得られていることをはじめ、日本の国立大学がいずれも比較的上順位にランクされるという結果が得られている。

さてQS世界大学ランキングでも順位の変動を見るのはアジアの代表的な以下の8大学とする。

日本:東大、京大
シンガポールシンガポール国立大学(NUS)、南洋工科大学(NTU)
中国:北京大学清華大学(Tsinghua University)
香港:香港大学、香港科学技術大学
韓国:ソウル大学、KAIST(科学技術に特化した大学院大学、日本の奈良先端大などに相当)

2011年〜2016年におけるこれらの大学の順位変動を折れ線グラフにしたものを、図1に示す。



図1.アジア主要10大学の世界大学ランキングの変動


10大学をまとめて図にすると少しごちゃごちゃしているが、少なくともこの図からは以下のことがわかる。まずひとつは2013年から2015年にかけてはこれらの大学の順位は比較的安定しているが、2016年にこれらの大学の順位にかなりの変動が見られることである。これはTHE世界大学ランキングと同様に、QS世界大学ランキングでも2016年には評価基準にある程度の変動があったことを意味している。大きく順位を上げている大学はこの評価基準の変化の恩恵を受けていると思われる。

QS社もTHE社と同様にランキングに関するコンサルティング業務を受けるという仕事をしている。このことからランキングを大きく上げている大学のいくつかはQS社にランキングを上げるためのコンサルティングを依頼したのではないかと思われる。日本の大学特に国立大学が外部の機関にランキングに関するコンサルティングを依頼するというのは考えられないが、アジアの大学特に私立大学ではある程度行われていることは公然の秘密と言っていい。

もうひとつの大きな特徴はシンガポールの2大学であるNUSとNTUが大きく順位を上げ、なんとNUSは12位、NTUは13位とトップ10を狙える位置まで順位を上げてきていることである。特にNTUは2011年には58位とこれらの10大学の中ではビリから2番目の位置にあったのが、5年間の間にトップ10を狙える位置まで上がってきたというのは驚異的である。

私がシンガポールのNUSに移った2008年にはアジアの地方大学のひとつに過ぎなかったのに、なぜここまで順位を上げるかという感じを持たざるを得ない。海外の有名教授の招聘に熱心であったり、産学連携をトップダウンで熱心に推進したり(特に工学系の教員はほぼ強制的に企業との共同研究推進を勧められていると聞く)していることが、順位を上げていることにつながっているのであろう。

それにしても、NTUが世界の歴史の長い有名大学がひしめく中で、トップ10に近い地位まで上がってきているというのは、ある程度NTUの内情を知っている私としては少々信じがたい面もある。海外の大学の知り合いの先生方に聞いてみても、世界的に見るとNTUはまだ無名に近い存在である。それにもかかわらずここまで順位を上げてきているのは、かなりの金額を積んでQS社にコンサルティングを依頼しているのではないかと考えられる。と同時に、世界的にはまだそれほど知られていないNTUが短期間にここまで順位を上げてきて、トップ10を狙う位置にまできていることは、逆にQS大学世界ランキングに対する世界の研究者・教育者からQS世界大学ランキングに対する信頼性を失わせることになるのではないかという危惧も私は感じている。

(続く)