シンガポール通信-ポケモンGOのブームはすぐに終焉する?

さて、ポケモンGOのヒットに関する分析を行った際に、このヒットはそれほど続かないだろうと予想した。今回はなぜそのように考えるかを述べてみよう。

まず第一に、ポケモンGOはゲームとしては単純であることがあげられる。特定の場所に行って敵キャラクタもしくはアイテムを見出し敵キャラと戦って倒したり、アイテムを手に入れるのはゲームの定番であって、ここにはなんら新しいものはない。単に特定の場所というのが、ゲームの中に構築された仮想空間なのか現実の空間なのかという違いである。

通常のゲームだと、それだけの簡単なセッティングではすぐに飽きられてしまうので、ゲーマーを飽きないような仕掛けがしてある。具体的には、敵キャラを倒すとこちら側の強さが増したり、新しいアイテムに出会える可能性が増えたり、さらにはこれまで行けなかった新しい場所に行けるようになったりというような種々の仕掛けを施してあるのである。それに比較すると現在のポケモンGOは、単に種々のポケモンを倒して手に入れるという単純な仕掛けしか施していない。これではすぐに飽きられてしまうのではないか。

次に問題となるのは、ポケモンGOの最大の特徴ともいうべき拡張現実(AR: Augmented Reality)を使って現実空間にポケモンやアイテムが現れるという仕掛けが、ゲームを複雑にするのを妨げているということがある。

上に述べたように、現在のポケモンGOが単純であるという欠点をなくすためには、ゲーム設定を複雑化するというのが手である。そのためには複数の離れた地点を特定の順に訪れることによって希少なポケモンが入手出来るようにするなどの手がある。しかしそのようにゲームを複雑化するということは、プレーヤーに長い距離を歩かせる必要があることを示している。

ゲーム空間であれば、ゲーム空間内の大きな距離を移動するというのは、プレーヤーにそれほど負担を強いるわけではない。しかしながら、現実空間において長い距離を歩く必要があるという設定に、ついてこれるプレーヤーがどの程度いるだろうか。現在は敵キャラやアイテムと出会うために実空間を歩くという行為が、物珍しさも手伝ってポケモンGOの大きな魅力になっていることは間違いない。

そのために、引きこもりだったゲームオタクが屋外に出て歩き回るという健康的な行動をするようになった例があると、センセーショナルに報道されている。しかし引きこもりのゲーマーというのは、もともと出歩くのがおっくうな人種ではなかろうか。ゲームの新規性にひかれて現実空間を歩いてみるという行為をしたとしても、すぐに飽きてしまうもしくは歩くのが億劫になるのではないか。ましてやゲームが複雑化して、現実空間を長時間・長距離歩くという行為を求められるとなると、再び引きこもり生活に舞い戻ってしまうのではないだろうか。

そして三番目に気になるのは、ポケモンGOの爆発的な人気が生まれた状況が、20年前の1996年にバンダイのゲーム「たまごっち」が現れた状況と大変類似していることを思い出させるということである。

仮想キャラクタを育てる育成ゲームという新しいゲームのジャンルを切り開いたたまごっちは、日本初のゲームであるが発売とともに日本では爆発的ヒットとなって、たまごっちを入手することが困難な状態が生じた。同時にこのブームは海外にも波及し、北米を始めとして欧州でも爆発的に流行した。

一時はドイツの小学校で児童の多くが授業中にたまごっちをプレイするので、たまごっち持参を禁止したというニュースもあり、あの硬いドイツ人もたまごっちをプレイするのかと話題になったことがある。また、ちょうどその頃スタンフォード大学で国際会議を行った後、数人の日本人の研究者とともにスタンフォード大学の教授と会食をしていたら、スタンフォード大学の年配の教授がたまごっちを自慢そうに見せてくれて大いに驚いた経験がある。

ところがこのブームは数ヶ月後には沈静化して、大ブームに乗ったバンダイは大増産をしたために不良在庫の山を抱えることになって、世界的ブームになったにもかかわらずバンダイは不良在庫処分によって60億円の特別損失を計上するという事態まで生じた。

突然大ブームになるというのは、それが人間の感性の琴線のどこかに触れたということを示している。しかし人の琴線に偶然触れただけでは、人の興味を持続させる方法が見つからないので、ブームは長続きせず早晩ブームが終了するのである。今回のポケモンGOのブームも、歩きスマホがごく一般的な人々の行為になった現代において、ゲームプレーヤーの何かの琴線に触れたのであろう。

しかし上にも書いたように継続してプレーヤーの興味を引くための方法を私たちはまだ知らない。このような状況ではこのブームは早晩収束するのではないだろうか。