シンガポール通信-世界大学ランキング再び

今年も世界大学ランキングがいくつかの機関から発表される時期になった。日本の大学は、世界大学ランキングの結果を意識的に重要視しないかもしくは無視しようとしているが、マスコミの方が放って置かないようである。世界大学ランキングのうちTimes Higher Education(THE)が最近発表された大学ランキングにおいて東大・京大という日本を代表する大学のランクが下がったことをマスコミが鋭く突っ込んでいる。

具体的にはTHE世界大学ランキングによれば、東大のランクが昨年の23位から43位へと大幅に順位を下げ、同様に京大が昨年の59位から88位へと大幅に順位を下げた。東大は昨年まではアジアでは1位を維持していたが、今回はアジア1位の座をシンガポール国立大学(NUS)に譲り、アジアでも7位の位置に大きく交代した。

これを日経新聞が7月22日に大きく取り上げている。ただしその取り上げ方は、東大・京大のレベル低下を指摘しているというよりは、THEが評価方法を変えたこと大きな原因があるとしており、ある意味で好意的であると言える。しかし同時に、THE世界大学ランキングが特に留学を志す学生の間で大きな意味を持っていることから、この結果が留学生人気を左右するため無視できないことを指摘している。

昨年までは意識的に世界大学ランキングを無視しようとしてきた日本の大学にとっても今回の結果は無視できないものであったようで、国内の主要11大学で組織する「学術研究懇談会」は今回のTHE世界大学ランキングの発表を受けて、「ランキングを政策方針や成果達成指標として安易に利用すべきではない」との声明を出した。

THEが評価方法を変えたというのは、具体的には昨年まで33%を占めていた「研究者による評価」が25%に8%減り、一方「教員あたりの産学連携収入」が2.5%から7.5%へと5%増えたことが、その大きな変化の内容である。このことが海外の研究者に評判がいいが反面産学連携があまり進んでいない東大・京大の順位を下げることにつながったということのようである。

しかしアジアでのランキングのみを見ていては、世界における位置付けを見落としてしまうことになる。そこでここではあくまでも世界ランキングの観点からアジアの大学の順位がどのように変動しているかを見てみよう。

大学としてはアジアの日本・韓国・中国・香港・シンガポールの代表的な大学を以下のように二つづつ選ぶことにする。
日本:東大、京大
韓国:ソウル大、KAIST(科学技術に焦点を当てた韓国の大学院大学
シンガポール:NUS(シンガポール国立大学)、NTU(南洋工科大学)
香港:香港大、香港科技大(香港科学技術大学)

これらの8大学の2012年から2016年までの5年間の大学世界ランキングにおける順位の変動を示した図を図1に示す。(2012年とは2011年から2012年にかけての統計なので、グラフ上は2011−2012という記述になっている。)


図1.アジアの8大学の世界大学ランキングの変動


このままでは特徴が見えにくいので、どこに焦点を当てるかを変えて別の視点からグラフを見てみよう。実は順位を大きく下げているのは、日本の2大学と韓国の2大学なのである。そこでこれらの4つの大学を取り上げて順位の変動を示した図を作成して図2に示す。



図2.日本と韓国の4つの大学の世界大学ランキングの変動


図2を見ると、日本と韓国の4つの大学がいずれも2015年から2016年にかけて大きく順位を下げていることがわかる。このことは、先に述べた評価方法の変更がこれらの大学の評価結果に大きく影響を与えていることを示している。特に韓国の2大学はこれまで順当に順位を上げてきただけに、今回の評価方法の変更に大きな影響を受けたことがわかる。

(続く)