シンガポール通信-ポケモンGO狂想曲

米国で配信が始まったゲーム「ポケモンGO」がとうとう日本に上陸して、大きなブームになっているらしい。今回はこのブームの背景にあるもの、そしてこのブームが今後どうなるかを考えてみたい。

ポケモンGO」は、ゲームとしては極めてシンプルなゲームである。特定の場所に行くと特定のポケモンやアイテムが現れるため、それを手にいれることを競うというデジタルゲームである。敵と戦って倒したりアイテムを手にいれるというのはデジタルゲームの本流であり、かっての有名ゲーム「パックマン」「スーパーマリオブラザース」などもこのジャンルに入るゲームである。その意味でゲームとしては特に新しいものではないし、これまでこのジャンルの数え切れないほど数多くのゲームが作られてきたといえる。いやむしろ過去のゲームと比較しても、ポケモンGOの作りはシンプルだと言える。それがなぜこれほどのブームになるのか。

ポケモンGOの大きな特徴は、それがゲーム機(ポケモンGOの場合はスマホなので以下スマホとしておく)の中に閉じているのではなく現実世界の中で行われるということである。通常ゲームはスマホの中にゲーム世界が構築され、その中でゲームが進行する。例えばマリオの場合であれば、ゲームが進むにつれて新たな敵や新たなアイテムが現れる。敵を倒しアイテムを手に入れながら強くなっていき上のステージをめざすというのがマリオであり、ゲームの進行はゲーム世界の中に閉じていた。

ところがポケモンGOの場合は、敵やアイテムはスマホの中に現れるのではなくて現実世界の中に現れる。といっても現実世界の中に種々のポケモンやアイテムを登場させるのは大変なので、スマホをかざすことによりカメラで撮影される現実世界の中にCGのポケモンやアイテムが重ねて表示されるという方式を取っている。いわゆる仮想現実技術(VR: Virtual Reality)の一つである拡張現実技術(AR: Augmented Reality)を用いている。

AR技術を用いて現実と世界の中でポケモンと戦ったりアイテムを取得するというのがこのゲームがこれまでのゲームと異なっている点であり、それが現在大きなブームを引き起こしている理由であるというのが多くのゲーム解説者の言うところである。ポケモンに出会ったり、アイテムに出会ったりするためには現実世界の中を歩き回り、それらを探す必要がある。いわば現実世界がゲーム空間になるわけであり、それが人々を夢中にさせているのであるというのである。

基本的にはその通りであろう。ポケモGOがこれまでのゲームと異なるのは確かにその点であることは認めざるを得ない。しかしそれだけでこれだけの大きなブームになるのだろうか。

実は、現実空間をゲーム空間としてその中でゲームを行うというのは新しい考え方ではない。このような考え方は研究者の間、特に仮想現実関係の研究者の間では古くから提唱されていた。これらの研究者による国際会議では、そのようなゲームに関する発表は数多く行われてきたし、また国際会議に併設される展示の場では、そのようなゲームのプロトタイプの展示もしばしば行われてきた。その意味ではこれらの研究者達は、何を今更という思いを持つ人も多いだろう。

一方、ポケモンGOを体を使ったゲーム、言い換えれば身体的ゲームであるという見方もできるだろう。通常のゲームはゲーム機の場合であればゲームコントローラスマホの場合であればタッチインタフェースを用いて行われる。何れにしてもゲームを行う際は手先だけを使うわけである。この辺りがゲームに夢中になるのが不健康であると言われる所以である。

それに対して身体的ゲームというのは、手先だけではなく体を動かすことによってゲームを行おうとするものである。このジャンルで有名なのは、コナミの開発した「ダンスダンスレボリューション」であろう。これは曲に合わせて体を動かして特殊なマットの上でステップを踏み、そのステップの踏み方が正しいかどうかで点数が加算されていき、ゲームが進むというのものである。

主としてゲームセンターに導入され、一時期は大ブームになったことがある。いずれのゲームセンターもダンスダンスレボリューションの周りには大きな人だかりができ、ゲームをする側も観客の期待を意識して、華麗なステップを踏むために密かに練習に務めたという時代があった。それまでのゲームが手先を動かすだけだったのに対し、体を動かす身体的ゲームは新しいゲームの形態として大いに注目されたし、それが日本から出現したということに私たちゲームに関わる分野の研究者も大いに誇りに思ったものである。

そしてそれを引き継いだものが任天堂Wiiであろう。それまでのゲームコントローラがボタンを押すという動きしか受け入れなかったのに対して、Wiiは3次元の動きや加速度の検出などを行い、身体的ゲームにマッチしたゲームコントローラを持っていた。そしてダンスを超えて、体操やスキーやボクシングなど体を動かす多くのスポーツを対象としたゲームが開発された。それまで家に閉じこもって体を動かさず手先だけで行うというゲームの不健康なイメージを覆したという意味で、ゲームの世界における大きな革新であるといえよう。そしてこのWiiも日本初のゲームが世界に広がったという意味で私たちは誇りに思っていいと考える。

(続く)