シンガポール通信-ブログ再開

5月は全くブログ更新を行わず、気がつくと6月も後半である。5月から6月上旬にかけては、国の助成金取得に向けた研究計画書の作成を行っており、全く土日もない1ヶ月半であった。研究計画書の作成になぜそれだけの時間がかかったのかというのは、内容のこともさることながら参加研究者や参加企業の間の調整作業に時間が取られたからである。

最近、大学と企業との共同研究開発が「産学連携」などと呼ばれて重要視されている。これまで大学の研究が基礎研究にとどまっており、残念ながらそれらの多くが研究にとどまり産業化されることがなかった。これ対し、当初から大学と産業界が特定のテーマに対して共同研究を行うことによって、その溝を埋めようというのが産学連携の目指すところである。

もちろん特定の企業が将来のビジネスに向けて、特定の領域での基礎研究を大学に期待して特定の先生と共同研究を行うなどの例はこれまでも行われてきた。しかしながらいずれも個別のケースに閉じていたため比較的小規模であり、将来の産業を生み出すような大きな大きな規模の共同研究が行われるケースは少なかったと言えるだろう。

これに対して、最近は国が今後の日本の経済発展のためにどのような分野で新しい産業を起こすべきか、そしてまたそのような新しい産業を産むためにはどのような分野での技術開発が必要かを戦略的に検討するようになった。そしてそのような分野での大学と企業が一体となった産学連携での研究開発の取り組みに、比較的多額の(数億円〜数十億円)助成金を出すようになった。

そのこと自体は大変結構なことである。そのような助成金の公募が出ると、最近では大学の先生方が知り合いの企業の人たちと話し合って、どのような研究計画を作るかという議論や研究計画に基づいた申請書の作成作業などを行うことになる。関わる人たちは公募の締め切りまではいろいろと忙しいというわけである。

今回は日本文化をいかに産業に結びつけるか、もっというと日本文化そのものを新しい産業にできないかということで、京都大学の先生方が中心となって研究計画を作り申請書の形式に整えて提出するという作業を行ったわけである。私は直接研究に携わるわけではないが、これまで大学・産業界のいずれにも籍を置いた経験があり、産学連携の研究開発にも携わってきた経験があるので、今回の申請書のとりまとめにあたってそのお手伝いをすることとなった。それが5月から6月中旬まで大変忙しかった理由である。

先に書いたように何が忙しいかというと、もちろん研究計画の中身もあるのだけれども、多くの大学の先生方や企業が関わってくるのでそれらの間の調整に時間を取られるというのが忙しい大きな理由である。

調整といっても大学の先生方の間の調整はそれほど面倒でもない。それはすでに複数の研究者がチームを組んで行うプロジェクトに国が助成金を出すという仕組みがこれまで確立してきており、大学の先生方がそのような助成金の獲得に向けてチームを組んで研究計画を作るという作業に慣れているからである。

もちろん大学の先生方も同じような分野で研究活動を行っている限りはある意味でライバルなのである。しかしながら助成金の獲得というのはお互いにとってメリットのあることなので、普段はライバル視している他の先生方と組んで研究計画を作ることにはそれほど抵抗感はない。

問題は企業間の調整である。企業は特に近い領域で企業活動を行っている企業間ではお互いに自分の会社の将来ビジョンやそのために行っている具体的な研究開発活動を他者に明かすことに大変抵抗感がある。もちろん利潤追求の立場からはそれは当然であると言えよう。特に比較的規模の大きい助成金を獲得するための申請書の作成には多くの企業が関わってくるため、それらの企業にどのテーマで研究開発に関わってもらうかの調整は結構大変な作業になる。

また最近の国の産学連携の研究開発に対する助成金は「マッチングファンド」という形式をとることが多い。これは特定の研究開発プロジェクトに関わる企業がそのプロジェクトを進めるために出す資金と同じ学を国が助成金として出そうというものである。つまり1を出すと2になって帰ってくるというわけである。その意味ではメリットはもちろんある。

とはいいながら一方的にもらえる形式のこれまで国の助成金に慣れてきた企業にとっては、自分たちも負担しなければならないというのは大きな問題のようである。いくら出すとかいつまでにトップに説明して了解を得るかなど参加企業の多くがこの段階で企業内の調整に時間を要することになる。

そしてまたそれ全体を取りまとめる立場としては、企業の内部調整や他企業の動きに対する思惑を考慮しつつ申請書の締め切りまでに研究計画を取りまとめることが必要となる。研究計画のとりまとめに土日もなく1ヶ月半かかったというのはそのようなことによるのである。提出が終わってホッとしていると、早速次の助成金獲得に向けた研究計画のとりまとめや申請書作成の話が出てきた。来週からはその作業にかかることになるかもしれない。