シンガポール通信-日産の自動運転機能は本当に便利だろうか?

自動運転をめざした技術開発をグーグルや世界の車メーカーが競って行っている。すでに、前方に障害物があることを検出した場合に自動的にブレーキをかける衝突防止機能は多くの車に取り入れられており、実用化段階に入っているといえよう。また渋滞時などに前の車に追従して衝突を避けながら同一間隔を保って自動運転してくれる前車追従機能も、一部の車に取り入れられている。

渋滞時にブレーキをかけたり前車が発進したらそれに追従してアクセルを踏むことを繰り返すのは、大変退屈な作業である。特に長距離のドライブをした後帰り道で渋滞に出会うと、眠くなってくるしそれを抑えつつ退屈な作業を繰り返すのは、精神的にもかなり疲れるものである。その部分の作業を自動化してくれることは、運転しているものにとって大変ありがたい。
次の段階としてはハンドル操作であろう。高速道路のようなレーンが明確に線などで分離されておりかつカーブが緩やかな道路において、ハンドル操作を自動的に行う機能がそれにあたるだろう。

その機能を持った車を、日産が2016年度中に発売するとのニュースが入ってきた。この機能が搭載される車は日産セレナだろうとのことで、2016年にセレナの新型が発表されるのに伴い、この新機能が搭載された車が発売される予定であるとのことである。実際にセレナに搭載されるのは、高速道路で先行車に追従して速度をコントロールする先行区車追従クルーズとハンドルの操作のようである。

この機能は確かに運転手にとっては便利なように聞こえる。しかし本当にそうだろうか。また日産はこれをもって自動運転車第一号と宣伝する予定らしい。これは自動運転と呼んでいいのだろうか。

まず第一に、これをもって自動運転と呼ぶのは不適切である。日産は半自動運転という呼び方をするらしいが、半自動運転という呼称も言い過ぎであろう。あくまで運転支援もしくは運転サポートというべきであろう。なぜならこの機能をオンにしている際にも運転手がハンドルに手を添えている必要があるからである。運転手がハンドルに手を添えている必要があるということは、車のコントロールは基本的には運転手が握っており、高速道路で先行者に追従したり緩やかなカーブに沿ってハンドルを切るなどの操作を、車がサポートしてくれるということである。

したがって事故を起こせば当然それは運転手の責任になる。もちろん後でこの機能にバグなどの欠陥があったことが明らかになれば、それは自動車メーカーの責任になるだろうが。

と同時に考えなければならないのは、高速道路で前の車に追従して車の速度を自動的にコントロールしてくれたり、緩やかなカーブに合わせて車のハンドルを自動的に切ってくれる程度のことは、はたして運転手にとってそれほど労力の軽減になるだろうかということである。

よく言われるように、運転手にとっては車をコントロールすることそのことが運転の楽しみである。前の車との距離は運転手個々人によって違うだろうし、前の車が低速の場合は車間距離を詰めたりパッシングしたりして前の車に速度を上げるよう催促するなども(あまりマナーがいいとはいえないが)、運転の楽しみの一つではあるまいか。

第一、高速道路を走行している間は結構単純な運転が続くので退屈を感じることもある。その際にハンドルをコントロールしたり前の車との車間距離を調節するなどの行為が、それを和らげてくれるのではあるまいか。ハンドルを握っておきながら、車にハンドルの操作を任せておいて、かつ何かあった時の責任は自分にあるために、常に安全に関して神経を集中しておかなければならないというのはかえって苦痛ではあるまいか。

車を定速で走らせるオートクルーズ機能は実は米国では古くから実用なされたいた。私が初めて米国でレンタカーを借りて運転した1980年代にはほとんどの乗用車にこの機能が搭載されていた。ある速度に達した時にこのスイッチを入れるとそれ以降はその速度を自動的に保って走行してくれるのである。最初は便利だと感じたが、先に述べたように高速道路走行時にハンドルの操作だけを行っていると退屈して眠気を感じるなどのことがあり、結局短時間試してみたものの、すぐに使わなくなってしまった。

このオートクルーズ機能は日本にも導入され日本の幾つかの乗用車にも搭載されたとのことであるが、結局普及しないままに終わった。それは、上に述べたように車を運転するという操作全体から考えてこのオートクルーズ機能はあまり運転手の運転のサポートになっていなかったからだということができよう。

日産がセレナに搭載して発売しようとしている半自動運転機能は、このオートクルーズとあまり機能的に変わらないのではないだろうか。もちろん高速道路におけるハンドルの自動操作は完全自動運転に向けた技術開発としては衝突防止機能や前車追従機能などの次の段階であることは理解できる。しかしそれはあくまで技術サイドからの味方にすぎない。

実際に運転手の立場からすると、それは衝突防止機能や前車追従機能などに比較すると運転をサポートしてくれる機能としては弱いのではないだろうか。少なくとも高速道路走行時はハンドルから手を離してもいいとか、携帯を見ていてもいいとかなどが認められないと、運転手の立場からして大変便利な機能であるとは実感できないだろう。しかしこれを認めることは、法律の面からするとなかなか難しい問題であろう。