シンガポール通信-シャープが携帯ロボット発売:シャープよお前もか!

シャープがロボット型の携帯電話RoboHoN(ロボホン)を5月26日に発売すると発表した。価格は19万8000円で、このブログでも取り上げたソフトバンクのペッパーとほぼ同じ価格である。開発は、ロボットクリエーターとしてよく知られている高橋智隆氏との共同開発とのことである。

このニュースを聞いた私の第一印象は、「シャープよお前もか」というものである。ソフトバンクのペッパーに関してはこのブログでも辛口の批評を行い、ソフトバンクが意気込んでいるほど売れるとは思えない、下手をするとそのうちに販売中止に追い込まれるのではと予想した。それと同じことをシャープがやろうとしているからである。しかも資金が潤沢なソフトバンクならともかくも、台湾の鴻海精密工業に買収され再建を目指しているシャープにそのようなある意味お遊びといえるような企業戦略をとる余裕があるとは思えないからである。

このブログでも取り上げたが、コミュニケーションロボットのコンセプトはすでにずっと以前から提案されており、2000年〜2005年の第二次ロボットブームの際にはソニーAIBONECのパペロなどのロボットが開発され、その幾つかは販売された経緯がある。ソニーAIBOは大きな話題となり当初は販売する側から完売するという盛況であったが、結局のところ製造・販売中止に追い込まれた。もちろん全く売れなくなったからというよりは、当時のソニーの経営状況に基づく企業判断ではあろうが、いずれにせよビジネスにはならないと判断されたため製造・販売中止に追い込まれたのである。

その当時と何が違うのか。ロボホンのビデオを見る限りでは、確かにヒューマノイドロボットとしての種々の動作はできるようであるが、かって第二次ロボットブームの時に多くの企業やベンチャーから発表された二足歩行ロボットの性能を越えるものではない。会話能力に関しては、音声認識機能の向上によって人間の話しかける言葉の理解精度は上がっているだろう。しかしスマホ音声認識機能が騒音のある場所ではうまく働かなかったり、早口で喋ると働かなかったりすることからすると、同じような問題を抱えていることは推測できる。

さらには人間との会話をどのように行うかという「会話制御」とでもいうべき領域に関しては、残念ながらAIの領域でも過去十数年に大きな進歩があったとは思えない。結局のところロボホンのコンセプト・機能は、第二次ロボットブームの頃に発表・販売されたロボットたちとなんら変わっていないのである。シャープは第二次ロボットブームから何も学ばなかったのだろうか。

たしかに第二次ロボットブームの際にシャープはロボットを発表はしなかった。どのような企業判断によるものかは知らないが、少なくとも当時はロボットの研究開発はシャープにおいては行わなかったと考えられる。それが今になってしかも会社の経営が揺れている時にコミュニケーションロボットの開発を行い、かつ販売するという企業戦略を取ろうとしていることはどうにも理解に苦しむ。

第一19万8000円という価格は、電話機としてはそしてまたこのサイズのロボットとしては高すぎるではないか。どのような経緯でこの価格に決めたのだろう。たしかにロボットクリエータ高橋智隆氏のデザインはなかなか秀逸で愛くるしいデザインになっている。しかしデザインだけでこの価格を決めたのではあるまい。どうもソフトバンクのペッパーがほぼ同価格であることからすると、ソフトバンクの後追いをしているのではないかと勘ぐりたくなる。もっというとコミュニケーションロボットの開発・発売をこのタイミングで行うということ自体がソフトバンクの後追いをしているといえるであろう。

どうして日本の電機メーカーは他社の後追いをするのが好きなのだろう。そういえば日立も4月8日に接客ロボットEMIER3(エミュー3)を発表した。こちらは2018年に販売開始の予定だという。もちろん、研究開発はすぐにできるものではないので、シャープも日立も自社の研究開発としてそれなりの時間と予算をかけて行ってきたのであろう。しかしながらその発表のタイミングを見ると、ソフトバンクのペッパーが話題になっているのでそれに便乗して発表したとしか思えない。

たしかに外部の技術を導入して短期間にペッパーの販売にこぎつけたソフトバンクの戦略を見ると、自社で時間をかけてロボットの研究開発を進めてきたと思われる日立やシャープが焦るのは理解できる。そして自社の技術力アピールのためにペッパー人気に便乗して自社のロボット技術のアピールを行いたいのもわからなくはない。しかしシャープや日立ともあろう大会社が、コミュニケーションロボットの現在の技術レベルがはたして市場開拓できる段階に達したかどうかという判断なしに他社の発表の後追いで自社ロボットの販売予定を発表するというのは、企業戦略として稚拙ではなかろうか。