シンガポール通信-ペッパーはソフトバンクの事業として成り立つか2

ペッパーに関する記事を読んでいると、いくつかの疑問を感じる。その最も大きなものは前回も書いたように、果たしてコミュニケーションロボットとしてこれまで発表されたロボットとペッパーは何が違うのかということである。

第二次ロボットブームではかなりの数の人型ロボット・動物型ロボットが開発され、その幾つかは販売された。動物型ロボットとして最も有名なのは、これまでも書いたようにソニーの開発したAIBOである。AIBOはペットロボットなのでペッパーとその立ち位置は少し異なるが、これもコミュニケーションロボットの一種と言っていいであろう。AIBOは当初はペッパーと同様に販売するはしから完売し、購入した人たちの評判も上々であった。しかし結局飽きられてしまい販売中止となった。

人型ロボットとしてもっともペッパーと似ているのは、NECの開発したパペロである。パペロは1999年位最初のモデルが発表され、その後継続して改良版の発表が行われてきた。ということは、最初の発表以来NECはパペロの改良を15年以上にわたって続けてきているわけである。研究開発の姿勢としては、パペロを希望する企業等へレンタルし接客などに使ってもらい意見をフィードバックしてもらい、それを次のパペロの改良に生かすというNECらしい研究開発姿勢をとり続けてきた。

しかし結局パペロの販売に至ることはなく、レンタル事業止まりであった。しかも最近NECのパペロのホームページを訪問してみると、パペロのレンタルは中止となっている。「多くの企業からレンタルの申し出があり台数に限りがあるため」と言い訳しているが、多くの企業からレンタル希望があるということは事業化の可能性が高いわけであるから、レンタルを中止するという判断にはならないだろう。

またNECは、パペロ用アプリケーションのパートナー企業を募集することも行っていたが、これも2014年8月から一時受付を中止するとなっている。一時中止といいながらすでに2年近く再募集を開始していないわけであるから、これは実質募集を終了ということであろう。つまりNECはパペロの事業化は無理と判断したと言わざるを得ない。

パペロはペッパーと似た性質のコミュニケーションロボットである。NECは時間をかけて企業との共同によってパペロのビジネスにおける適用領域やそのためのアプリケーションの開発を行っておきながら、最終的には事業化は無理と判断したのである。もちろんこれは憶測であり、NECはそのような判断が行われたとは言っていないし、これまでの研究開発の経緯やそこで得られたデータを公表しているわけではない。

したがってペッパーを用いて同じような応用ビジネスを考えているソフトバンクは、NECが検討を行ってきたことを再度自分たちで行う必要があることになる。ソフトバンクのトップがそれを行うと判断したのであれば、ソフトバンクの財力を持ってすればNECが通ってきた研究開発の道筋をたどり直しさらにそれを先に進めることも可能かもしれない。したがって現時点でペッパーがパペロやAIBOと同じ轍を踏むと予想するのは早いのかもしれない。

しかしそれにしてもパッパーに関するニュースを読んでいるとすでに第二次ロボットブームの際に検討されたことを再び繰り返しているという感想を持たざるを得ない。例えばペッパーの企業の置ける応用領域としては接客を考えているようである。しかしコミュニケーションロボットを接客に使うというのは以前からあるアイディアであり、特段新しいものではない。

パペロも含めて多くの企業やベンチャーが自社のロボットを接客用に試用することは第二次ロボットブームの際に行われたことである。しかしコミュニケーションロボットとして単にお客に愛想を振りまくだけではすぐに人々に飽きられてしまうだろう。ペッパーは、飽きやすい人々の興味を引きつけておくだけの新しいコミュニケーション機能を持っているのであろうか。これは大きな疑問である。

またペッパーの別の用途として、そのコミュニケーション機能を生かして、高齢者用のホームなどにおいて高齢者との対話などに応用するということも考えているようであり、その実施例などがネット上で報告されている。しかしコミュニケーションロボットを高齢者の話し相手として使うというアイディアも、すでに第二次ロボットブームの頃に盛んに検討されたことである。

「高齢者がペッパーとの対話を大変楽しんだ」とか「中にはペッパーの体に触れたり抱きしめる高齢者もいた」とか「ペッパーを持ち帰ろうとすると高齢者が置いていってくれと懇願した」などの事例が紹介されている。しかしこれらはいずれも第二次ロボットブームの際にも起こったことである。私自身もATRにいた当時にロボビーという人型のロボットを現在阪大教授の石黒先生と開発して高齢者施設で使ってもらったことがあるが、全く同じ状況が生じたことを覚えている。

人間というのは、新しい状況には「これは面白い」とか「これは有効だ」などの反応をするけれども、すぐに慣れてしまってさらに新しい刺激を求める動物なのである。ペッパーを高齢者施設で継続的に使ってもらった場合に、高齢者からどのような反応が得られるかが重要なのである。私が恐れるのは、当初は物珍しさから高齢者がペッパーとの対話を楽しんだとしても、すぐに飽きてしまい、しばらくするとペッパーが埃をかぶっているということにならないかということである。