シンガポール通信-ペッパーはソフトバンクの事業として成り立つか

ソフトバンクが人型ロボットが産業として成り立つと判断しているのではないかということを前回述べた。それは、ソフトバンクがペッパーと呼んでいるロボットの製造・販売を行っている手法が、まさにロボット事業を自社のビジネスの一つとして推進しようとしているかのように見えるからである。

前回書いたように、ペッパーのハードは自社開発ではなくてフランスのベンチャー企業の開発したものを導入している。そしてそれにソフトバンク傘下の会社の開発したソフトを乗せて売っているわけである。しかもペッパーの製造に関しては鴻海精密工業に外注している。鴻海精密工業といえば、シャープを買収した会社として最近ニュースをにぎわしている会社である。

鴻海精密工業は受託製造会社として世界最大級の会社である。そこで1日100台近くのペッパーが生産されているという。ペッパーの販売価格を1台20万円として1日2000万円、1ヶ月では3億円近い売り上げを予想しているというわけである。これは会社の1つの事業部として十分成り立つ規模ではあるまいか。

さらにその販売方法も事業化を前提にしていると考えられる。ペッパーの販売価格は前述のように約20万円であるが、実はそれだけではない。20万円で購入できるのは単なるハードであり、それにソフトを入れたサポートを受けようとすると毎月1.5万円、さらに故障した場合の保険をかけるとすると毎月約1万円を支払う必要がある。これだけの出費を覚悟しないとペッパーを購入できないわけである。しかもこれは個人が家庭での趣味やエンタテインメントのために購入する場合であり、接客などの実際のサービスに使用するため法人で購入しようとすると、サポート料として月5万円程度を支払う必要がある。

つまりペッパーを家庭で購入すると、携帯電話の通話料の一家分に相当する費用を毎月払わなければならないことになる。このことからすると、ソフトバンクが狙っているのは、現在の携帯電話事業と同じように一家に一台ペッパーを購入してもらい、かつ携帯電話と同じ程度の維持費を支払ってもらうということではないだろうか。

ソフトバンクが本気でそれを狙っているとすると、それはなかなか壮大な事業計画であるといえる。しかし狙っていることとそれが実現するかどうかは別物である。ソフトバンクのロボット事業は実際の事業として成立するであろうか。

ここで興味深いのはソフトバンクがペッパーで始めようとしているロボット事業が、ソニーAIBOで始めようとしたロボット事業の最初の頃の進め方と極めて似ていることである。ソニーAIBOの販売を開始した当時は大量生産してAIBOを大量に販売しソニーの事業の一つにすることを狙っていた。そして最初の頃は売り出したAIBOがいずれもたちまち売り切れるという事態が生じた。さらにその後の追加売り出しでもすぐに売り切れた。これらは最初にオンラインで販売を開始したペッパーがたちまち売り切れたこと、さらにはその後も追加発売が売り切れ亭いるというペッパーの発売の際と非常に似た状況である。

いやむしろAIBOの発売当時のほうがマスコミ等での取り上げられ方はよりセンセーショナルであったのではないだろうか。これをもってペッパーがAIBOより人気がないとは言い切れないが、あれだけ人気のあったAIBOが結局事業としては成り立たないと判断され生産中止に追い込まれたことからすると、ペッパーが継続して売り上げを確保できるかどうかは心もとないのではないだろうか。

ペッパーの基本的な能力はコミュニケーション能力であって、それを生かして接客・エンタテインメント・高齢者対応などを行わせることをソフトバンクは考えているのではあるまいか。その意味でペッパーはコミュニケーションロボットであるということができる。しかし、コミュニケーションロボットはすでに第二次ロボットブームの際に数多く開発され、それらのうちの少なくないものが発売された。当初は物珍しさからマスコミなどでもよく取り上げられたが、結局のところ飽きられてしまい、徐々に話題にならなくなった。そしてそれが第二次ロボットブームの終焉を招いたのである。

それは結局それらのコミュニケーションロボットのコミュニケーション能力が限定されており、人間が継続して使いたいと思うだけの能力・魅力を持っていなかったということである。それらの中でもAIBOは大変よくできたコミュニケーションロボットであったが、それでもなおかつ飽きられてしまった。人間というのは結構飽きやすい生き物なのである。それらの過去の経験はパッパーには生かされているのだろうか。