シンガポール通信-イスラム過激派のテロにどう対応するか3

さてそれでは、世界がイスラム国に代表されるイスラム過激派に向けたメッセージは、どのようなものとなるべきだろうか。私の考えた案を以下に示そう。

「我々は今回のフランスにおけるテロに代表されるテロを、イスラム過激派が世界に対して仕掛けている戦争であると理解する。その根源には、イスラム教の基本原理である政教一致を彼らがかかげていることにある。そして欧米諸国が基本原則としてきた政教分離の原則とそれに基づく科学技術・生活様式を受け入れられないものであると考え、政教分離を悪であると決めつけ、それを受け入れている国々に戦争を仕掛け、かってのイスラム帝国を現代において蘇らせようとする試みであると理解する。
しかし我々は政教分離の基本原理が正しいと考える。この基本原理こそが、宗教が我々の生活のすべての面を縛る呪詛から解放し、便利さや快適さなどを追求することを可能にした。そしてまたそれが、便利さや快適さの実現を追求する科学技術の発展を可能にした。現代我々が享受している生活はこの政教分離の基本原理から生まれたものである。欧米諸国のみならずアジアなどの国々はいずれもこの基本原理を受け入れている。

そしてイスラム過激派自身もこの現代科学技術の成果を受け入れているではないか。彼らの最新武器はいずれも現代科学技術の成果である。もし政教分離の考え方を受け入れられないのなら、現代科学技術の成果も受け入れるべきではなく、彼らが持つ武器も即刻捨てるべきではないか。現代科学技術の成果を享受しているということは、すでに彼らが政教分離の考え方を取り入れていることを示しているではないか。

もちろんイスラム過激派がこの誤りを認め、現代の科学技術の成果をすべて捨て去りムハンマドによって樹立されたイスラム教の根元に戻り、イスラム教の教えに従った生活を送るなら、世界はそれを受け入れるであろう。その場合は欧米を中心とした他の国々へのテロは即刻そして永遠に中止すべきである。

もしイスラム過激派がテロを今後もつづけるならば、世界はそれを政教一致固執するイスラム原理主義が世界に対して仕掛けている戦争であるとみなす。そして政教分離の考え方に基づいて人類の発展をめざしている人々に対する戦争であるとみなす。それは我々が長い年月かけて築き上げてきた世界を破壊しようとする暴挙であり、許すことができない。我々はイスラム過激派やその本拠地であるイスラム国に対する宣戦を布告する。そしてどのような手段をもってしてでも、世界を破壊しようとしているこの危険なイスラム過激派、イスラム国を倒すことをめざす。」

イスラム国やイスラム過激派のテロに対して反撃するならば、このような理論武装を行うことが不可欠であると考える。単に「テロは許せないからそれに対して反撃する」というフランスを含めた現在の世界各国の態度は明確ではない。主義主張を明確にせずにテロへの反撃を開始することは、単純な復讐であるとみなされかねない。そして政教一致に基づく本来のイスラム教の教えを至上のものとし、かってのイスラム帝国を再現しようとしているイスラム過激派に、自分たちの主義主張が正しいことを確認させるだけになるのではないだろうか。

さてこのように世界がイスラム過激派に対する戦いを開始することになった時、私たち日本人の立場はどうなるのであろうか。テレビ・新聞などのメディアを見ていてもどうも識者と言われる人たちも、日本は関係ないという立場でニュースを報道しコメントしているようである。そんなことはない。日本は立派に戦争の一方の当事者としてこの戦争に参加しているのである。

安倍首相が述べているように「日本は欧米の側に立ってテロに対して戦う」と宣言しているのである。このこと自身は正しい。日本は東洋一元論に基づく長い歴史と独自の文化を持ち本来の考え方は欧米のそれと相いれないものである。しかし結局明治維新により西洋の思想と科学技術を取り入れることを決断し、それ以降急速に発展してきた。その歴史はある意味でイスラムの歴史と似ており、その意味では日本の歩みはイスラム諸国の進むべき道を先取りしてきたということができる。

しかし頑なに政教一致に基づく本来のイスラム教の教義に固執するイスラム過激派にとっては、日本は裏切り者であると判断されても仕方がない面がある。日本がテロの標的にされる可能性がないとは言えないのである。しかも日本人はテロに対する危機意識が薄いし、テロの実行犯が武器などを持ち込むことに対する防備も薄い。

ただ幸運なのは日本人が単一民族であるため、日本社会においてはイスラム教徒は異邦人でありその行動は目に付きやすいことである。また武器の所持が禁じられている。したがって国内でイスラム過激派が直接今回のパリにおけるようなテロをおこすことは困難であると言える。しかし日本人にもイスラム過激派の考え方に同調する人はいるであろう。その代表例がイスラム国に潜入しようとして殺害された2名の日本人である。イスラム原理主義に洗脳された日本人によるテロこそが、私たちが警戒しなければならないものではないだろうか。