シンガポール通信-パリの同時テロはイスラム原理主義者による欧米への戦争である

13日にパリ市内の3カ所で起きたテロ事件により、現時点で130名近い方々がなくなったとのニュースが報道されている。痛ましい限りであり犠牲になった方々のご冥福をお祈りする。

テロ事件はバタクラン劇場、パリ市内のレストラン、スタッド・ド・フランス競技場の3カ所で生じ、特にロックコンサートを開催中のバタクラン劇場ではテロ実行犯の無差別銃撃により約100名の死者が出たということである。

まだ現地は混乱しておりテロの全容の解明は今後であろうが、射殺されたテロ実行犯の残したパスポートなどから、イスラム過激派特にイスラム国が関与しているとみられている。またイスラム国が犯行声明を発表したとのニュースもある。

さて先に述べたようにまだ現地も含めて混乱状態にあるため、テレビ・新聞・ネットなどのニュースを見ていても、生じた事件の内容特に被害者の数の報道に追われている。イスラム国の過激派が起こした事件としても今年1月にパリの出版社シャルリー・エブドイスラム過激派に襲われ12名が犠牲になった事件からまだ1年も経たない時期での大規模なテロにフランスも含め全世界が呆然としているというのが現状だろう。

オバマ大統領、安倍首相をはじめ各国の首脳がコメントを発表しているが、いずれも「テロは許されない」という抽象的なコメントにとどまっており、どう対処するのかということに言及するに至っていないのも、この事件が各国に与えた影響の大きさを示している。

さすがにテロ被害の当事国であるフランスはオランド大統領が全土に非常事態宣言を出し、国境を封鎖するなどの対応に素早く乗り出している。日本の旅行会社もさすがに14、15日のパリ行きのグループ旅行は中止するなどの対策をとっているようである。もっともパリには日本からの観光客も多く滞在しておりため、特に観光客をいかにすばやく日本に帰国させるという対応を日本政府は取る必要があるだろう。

さて上にも述べたようにまだこの事件に関してフランスを含め世界は混乱状態もっというと茫然自失状態であるといっていいだろう。そのためイスラム国が犯行声明を出した現在もイスラム国、イスラム過激派にどう対応するのかという対応策を出すには至っていない。フランスのオランド大統領は自国の首都における大規模なテロ事件に対して大きなショックを受けており「これは戦争だ」と言明しイスラム国への報復も示唆している。多くのフランス国民もこれに賛同しているようであるが、まだ具体的なフランス政府の対応策が発表されているわけではない。

さてなぜイスラム国や関連するイスラム過激派が欧米の国々やその市民を対象とした無差別なテロを行うのかということに対しては、これはイスラム原理主義を信奉するイスラム過激派が欧米諸国に向けて仕掛けている戦争であると考えるのがわかりやすい。それはまさにオランド大統領の「これは戦争だ」という言葉が、本人がどこまで深く理解しているのかは別にして実際には的を得ているということなのである。

このブログでも2名の日本人がイスラム国によって殺害された時に何度か書いたけれども、その基本的な原因はイスラム文化対欧米文化、さらにもっと突き詰めるとイスラム教対キリスト教の対立にあるといっていいだろう。

イスラム教とキリスト教さらにはユダヤ教はその起源を同じくするいわば兄弟宗教である。いずれも教徒に厳格にそれぞれの教えに基づいた生活をすることを求めている。しかしながらイスラム教とキリスト教では極めて大きな基本原則の違いがある。それはイスラム教が政教一致を主張するのに対し、キリスト教政教分離を認めていることである。教は人間の生活における精神面でありそれに対して政は政治・経済、つまり人間の生活における物質面をさしている。

つまり本来のイスラム教は精神面だけではなく人々の日常生活の隅々にまでさらには政治・経済までイスラム教の教えに則って行わなければならないと定められている。これは宗教の理想形態であろうが、反面極めて窮屈な宗教であると言わざるを得ない。それに対してキリスト教では政教分離を認めているため、日常生活の物質面では人々は物質的欲求を満たすことが認められる。

そのことが科学技術の進歩の結果を人々が享受することを可能とし、そしてまたそれが科学技術の進歩を後押ししたと言えるだろう。物質面での欲望を満たすことは精神面にも影響を与えることは避けられないが、この矛盾に目を閉じることによって欧米の現在の繁栄があるといっていい。

そして当然現代の科学技術はイスラム諸国にも流入しつつある。イスラム諸国の人々はイスラム教を信奉しながらも、彼らの日常生活では欧米の科学技術の成果を受け入れ物質的に満たされた生活を享受しているといえるだろう。それは本来のイスラム教の教えを守ろうとするイスラム原理主義からすると、政教一致イスラム教の根本原理をゆるがすことなのではあるまいか。ここにこそイスラム国やイスラム過激派などのイスラム原理主義者が欧米を憎み欧米に対してテロを仕掛ける根本原因があるといえるのではないだろうか。