シンガポール通信-2015年世界大学ランキング

少し旧聞に属するけれども、世界大学ランキングについて少し議論してみたい。10月1日に英国の教育専門紙Times Higher Educationが毎年発表している、THE (Times Higher Education) World University Rankingが発表された。東大がランクを大幅に落とし、とうとうシンガポール国立大(NUS)にアジア1位の座を譲ることになったと一時話題になったランキングである。

世界大学ランキングは幾つかの機関から発表されており、それぞれによって結果がかなり異なっている。従ってそのうちの一つを取り出して一喜一憂する必要はないとも言えるが、その中でもTHE World University Rankingはよく知られており取り上げられることも多いので、無視するわけにはいかないだろう。

今回のランキングだけを論じても得るところが少ないと思われるので、今回のランキングも含め過去5年間のランキングを表と図にしてみた。表1と図1にその結果を示す。


表1 過去5年間のアジアの主要大学の世界大学ランキング


図1 表1を図にしたもの


この結果からわかる最も顕著なことは以下の2点である。

1.シンガポール、中国、香港の大学(興味ふかいことにシンガポール、中国、香港の各国がそれぞれ2大学ずつが100位以内に入っている)は個別に見ると順位を上げたり、横ばいだったり、少し順位を下げたりしているが、全体としては現状維持に成功している。

2.ところが日本の東大、京大の2大学と韓国のソウル大、KAIST(韓国科学技術大学)、Postech(浦項工科大学校)の3大学は大幅にランキングを下げている。何が起こったのだろう。

Postechは韓国の鉄鋼関係の企業が1986年に設立した私立大学である。技術系の学部・学科のみから構成されているいわば単科大学である。昨年まで急激にランキングを上げており、注目されていた。それが昨年の66位から今年は180位と100位以上順位を大幅に下げている。

またKAISTは技術系の大学院の学部・学科から構成されている大学院大学である。創立は1971年と歴史もある。日本で言えば奈良先端科学技術大学院大学などと同じような種類の大学である。研究者の間でも名前が知られており、私も知り合いのKAISTの教授が何人もいる。KAISTもこれまでは50位から60位の間と安定した順を保っていたが、今回の発表では昨年の52位から148位へと100位近く順位を下げている。

PostechもKAISTも技術系に特化した大学ないしは大学院であり、いわゆる総合大学ではない。これらの大学が順位を下げているのは、評価方法が変わってどうもこれまでと異なり総合大学に有利な評価方法に変更されたと考えざるを得ない。これを確かめるには部門別の世界大学ランキングを見てみる必要があるが、それはまた別に論じたい。

さてそれでは日本の東大・京大、韓国のソウル大の大幅なランキングの低下はどのように考えたらいいのだろうか。東大は昨年の23位から43位へと20位以上順位を下げており、京大も59位から88位へと30位近く順位を下げている。またソウル大は昨年の50位から85位へと30位以上順位を下げている。この3校はいずれも総合大学であり、上に述べたように今年から総合大学に有利な評価方法に変更になったのではというだけでは説明できない順位の低下である。

特に韓国は教育熱心で知られた国である。その国の代表的な大学であるソウル大、KAIST、Postechが大幅に順位を下げているというのは、韓国では大きな話題になっているのではないだろうか。実は明日から韓国の国際会議に参加のために韓国に出張である。その間に知り合いの韓国の大学の先生にこのことを聞いてみようと考えている。

(続く)