シンガポール通信—国立台北大学での滞在2

さてそうこうしているうちに国立台北大学(National Taipei University: NTPU)での一ヶ月の客員教授としての滞在もあと一週間となった。実際にはこの間に中国出張と2回の日本出張があったので、実質は15日という滞在であった。

とはいっても、その間にいろいろと客員教授としての仕事を果たしたつもりである。これから行うものも含めると、学生向けの講義を10回、学生とのミーティングを2回、全学向けの講演を1回、修士課程の学生の修士論文の指導を2回と修士論文発表会への参加、さらには学部学生の卒論研究のデモへの参加、教員とのミーティングと、数えてみると全部で18回もいろいろな活動を行っている。

実質の滞在期間が15日なので、平均すると1日に1回以上なんらかの活動を行ってきた事になる。まあNTPUには十分貢献したというではないだろうか。さてNTPUで学生相手に10回の講義を行った経験から、NTPUの学生(そしてそれは多分台湾の大学の学生全般にいえることと思うが)と日本の学生との比較をしてみよう。

一言でいうと、台湾の学生と日本の学生は、性格的にもまた実際の行動面でも大変良く似ているといっていいだろう。シャイでなかなか自分の意見を人前で発表しようとしない。先生方に聞くと、つまらない質問や間違った質問をして他の学生から笑われるのがいやだからということである。このあたりは日本の学生の行動と良く似ているではないか。

英語の能力に関していうとシンガポールの学生に比較すると少し劣ると感じられる。英語のヒアリングの能力は十分持っており、私が英語で行った講義の理解力や質疑応答の場合の理解力に関しても、聞く方は問題ないようである。ただ話す方になると、少々心もとない。質疑応答の時などは、英語で質問して来る学生と中国語で質問し同席しているNTPUの先生に英語に翻訳してもらう学生が半々程度である。もっともこれでも日本の大学の学生は全員が英語でのヒアリングが可能というレベルに到達していないので、台湾の学生の英語能力の方がまさっているということができる。

学生の能力や熱心さはどうか。能力に関しては個々の学生と十分に話し合う時間は残念ながら持てなかったが、講義の後での質問などからすると理解能力は優れたものを持っているといえる。またこれはアジアの学生全般にいえる事であるが、優れた感受性を持っている。アジアの映画・ゲームさらにはキュートなキャラクターなどが世界的に評価されているが、これはこのような優れた感受性によって生み出されるものであろう。日本のクールジャパン戦略にもいえる事であるが、今後世界と戦って行く時にこの優れた感受性は大きな武器になるのではないだろうか。

熱心さに関しては良く学び良く遊ぶといったところだろうか。こちらの大学は朝9時から夕方5時までが正規の時間帯であり、学生は5時以降はクラブ活動の方に精をだすことになる。もっとも卒業研究や修士研究を行っている学生は研究室に午後5時以降まで残って研究を行っている学生も多い。

それ以上に驚かされるのが、午後5時を過ぎるとすぐに大学のスタッフはそして大半の教授も帰宅してしまうことである。午後6時を過ぎるともう大学の建物の中はもぬけの殻といった状態になる。これはシンガポールシンガポール国立大学にいた当時にも感じた事である。ともかくも大半のスタッフさらには教員は仕事は仕事と割り切っているようで、就業時間がおわるとさっさといなくなる。

これはこれで仕事と私生活をうまく切り分けているという意味で、欧米の働き方に近いわけであり、良い習慣であり私たち日本人も見習うべきであるという見方もできる。もっとも私のように、就業時間以降もオフィスに残って仕事をしたり本を読んだりさらにはゲームをしたりという、仕事と余暇とが混在したような生活が好きな人間からすると、アジア人のくせに欧米的な習慣を身につけてしまっている台湾の人々の生活スタイルに少々違和感を感じる事も事実である。



全学向けの講演を行った後で、私を招聘してくれた電気工学科の学科長から記念品をもらっているところ。



これは学部学生の卒業研究のデモの発表会の様子。聞いているのはNTPUの先生方と一部企業からの見学者。残念ながらこのような場合はやり取りは中国語になってしまい、私にとってはチンプンカンプンである。



もっとも漢字のおかげでタイトルやポスターの内容は何となく推察する事ができる。



私のオフィスに将来の事で相談しにきた2名の学生との写真。いずれも修士の二回生で、この秋に卒業の予定。卒業後は日本の企業で働き日本に住みたいが、どうすれば良いかという質問である。いきなり日本に行けば何とかなるのではと思っている様子であり、いかにも経験不足という感じである。日本の企業で働くためには日本語がある程度話せる事が必要であり、日本企業の台湾支社で働き口を見つけるところから始めてはとアドバイスしておいた。