ンガポール通信-杭州再訪2

現在、台湾・台北台北国立大学(National Taipei University: NTPU)に客員教授として6月下旬まで滞在中である。滞在中に中国・杭州で行われたワークションプに招待されて、数日間ではあるが杭州を久しぶりに訪問した。その訪問記を書き始めたのだけれども、書きかけのまま半月ほど放置してしまっていた。

これはNTPUでいろいろと忙しかったためである。学生に対する講義やミーティングへの出席、先生方との議論、さらには修士課程の学生の修士論文発表会への参加など、いろいろと行事が組まれており、なかなか空いた時間を取る事ができなかった。夜は夜でディナーへのお誘いなどがあり、借りているアパートに帰ると後は寝るだけという生活が2週間以上続いた。

やっと行事も一通り終わり少し余裕ができたので、杭州訪問の訪問記をまとめておきたい。もっとも現地には二日間しか滞在しなかったので、観光をする暇もほとんどなかったのであるが、一つだけ観光名所の西湖で行われた湖上の舞踊演劇&ライトショーを鑑賞することができた。これは私たちを招待してくれた杭州教育大のパン先生がぜひ見ておくと良いと推薦してくれたものである。

これは、2008年の北京オリンピックのディレクターを務めた映画監督・張芸謀ディレクションによるもので、「印象西湖」と名付けられた湖上の舞踊演劇&ライトショーである。北京オリンピックの開会式でもなかなかこった演出がおこなわれていたのが記憶に残っているが、その同じ人によるディレクションならばそれなりの内容が期待できるということで、ワークショップが終わった後西湖に行き鑑賞する事とした。

ショーは西湖の入り込んだ入り江を舞台に見立てて、その湖上で行われるストーリー仕立ての舞踊演劇である。踊りと音楽だけで台詞無しでストーリーが進むが、見ているだけでストーリーは誰にでも分かるような演出になっている。ストーリーそのものは悲恋ものといったところである。

具体的には、戦国時代の中国の敵対関係にある国の王子と王女の悲恋物語である。愛し合う二人が両国の間に戦争がおこる事によって引き離され、戦乱の中再び出会う事ができたのもつかの間、王子は自分の国を継がなければならなくなり、自分の国を治める事を第一に考えなければならない立場になり、恋人の王女と別れざるを得ない。そして二人が再び出会えるのは死後の世界であるというストーリーである。

私は「四面楚歌」で良く知られている項羽と虞美人のストーリーを下敷きにしたのだろうと思ったが、一緒に行った中国の大学の先生はロミオとジュリエットを題材にしたのではないかという意見であった。

いずれにしても、ライトショーと聞いたので最初は単に照明による効果を出すだけのショーかと思っていたが、あにはからんや舞踊演劇としてしっかりとした演出がなされており、ヒーローとヒロインやその他大勢の演じる舞踊もそれだけでも見る価値があるものであった。しかも湖上という場所を活用し、水面下すれすれに舞台を用意する事により、あたかも演者達が水上で舞踊を演じているような感覚を与えるところなど大変見事であった。また音楽もいわゆる中国的なものというより私たち日本人の心に響くものであった。後で調べてみると日本の作曲家・喜太郎の作曲によるものだということで、さもありなんという印象である。


西湖の入り江を舞台に見立てた演劇&ライトショーの会場。対岸の樹木がライトアップされて大変美しい。実はこのライトアップがこのショーの中心かと思い、当初は少々がっかりしていた。



場面に応じてライティングが変わる。これだけでもライトショーとして良くできているという見方ができる。



さて実際にショーが始まると、水面を滑るように多くのダンサーが現れ踊りを始める。最初は水面に浮かんでいるようで驚かされるが、水面下に舞台がしつらえてあるのだろうと理解した。しかしそれでもなおその効果はなかなかのものである。



そして主役の王子と王女の出会いとそれに続く踊りのシーン。踊りによって水しぶきが跳ね上がり幻想的な雰囲気を醸し出しているのもうまい演出である。



これは戦いを意味すると思われる踊り。沢山の踊り手が手に持った棒で水面下の舞台をたたきながら踊る。踊りに応じて生じる音響とそして水しぶきが幻想的でかつ迫力に満ちた雰囲気を作り上げる。



そして気が付くといつの間にか湖上に大きな宮殿が出現している。これは宮殿を舟として作ってあり、観客が踊りに気を取られている間にライトを消したまま湖面の中央まで動かしておき、それからライトを付けるという方法により実現している。これもなかなかこった演出である。



演劇&ライトショーのクライマックスでいきなり水面下から三角形の鋼鉄の構築物が水しぶきをたてながら出現する。しかもその構築物にはLEDのライトが点灯しており、なにやら未来都市的なもしくは宇宙空間の都市のようなSF的な印象を与える。



その構築物がライトアップされ、これもまたこのショー全体の幻想的な雰囲気を盛り上げるのに役立っている。どうもそこでヒーローとヒロインが再び結ばれる死後の世界を表現したものではないかというのが私の理解である。しかしそれにしてもお金をかけて作り上げたショーである。