シンガポール通信-2015年世界大学ランキング4:大学の国際化を図っても世界大学ランキングは上がらない?

さて世界大学ランキングに関して少しネットを見ていたら、Times Higher Educationにおける評価尺度に関して書いてあるブログを見つけた(http://blogos.com/article/94868/)。これによると、評価は以下のような個別の指標値からなっているとの事である。これは私がダイレクトにTimes Higher Educationのweb pageから調べたものではない事を断っておくが、正しいと考えていいであろう。

それによると個別の指標値は「研究費収入(6%)、論文数(6%)、教員による評判調査(18%)、被引用数(30%)、学生対教員比率(6%)、博士授与数(2.25%)、学士授与数対博士授与数比率(4.5%)、大学の収入(2.25%)、教育に関する教員による評判調査(15%)、外国人教員比率(2.5%)、留学生比率(2.5%)、国際共著論文比率(2.5%)、外部資金(2.5%)」とのことである。

これを見てすぐ気がつく事であるが、大学の評価に大き寄与しているのが、1.教員による評判調査(18%)、2.教育に関する教員による評判調査(15%)、3.論文の被引用数(30%)である。1と2を足すと33%となる。つまり外部の評判が33%、論文の被引用数が30%と、なんと評価尺度全体の三分の二がこの2つの項目からなっているのである。

中でも外部の評判が33%と大きな数字になっている。つまりこれは、世界の大学の教員から著名な教員を選び、それらの人に個々の大学の評判に関しアンケートを用いて主観的な評価を行ってもらった結果を集計したものなのである。実際私自身にもそのようなアンケート調査が何度か送られてきた事があるので、これは確かであると思われる。

これで前回私が書いた「海外に向けて大学の宣伝を行う事が世界大学ランキングのランク向上に有効である」という仮説が正しい事が示されたではないか。「大学の宣伝」というと身もふたもない施策に聞こえるし、日本の大学の先生方はこのような施策を大変嫌うけれども、本気になって日本の大学の世界大学ランキングを上げる事を考えるならば、それがもっとも効率の良い施策であるということになる。

スーパーグローバル大学構想全体では毎年200億円程度の予算を使うのであるから、これを大学にばらまくのではなく、政府が日本のトップ大学を海外に向けて宣伝するのに毎年200億円使った方が有効であるという事にならないだろうか。もちろん宣伝の実施には電通博報堂などという民間の企業を使っても良いではないか。もう一度言うと日本人は特に大学の先生方は大変真面目なので、宣伝をして大学のランクを上げるという施策に対しては嫌悪感を抱きがちであるが、もう少しドライに考えても良いのではないだろうか。

事実最近は、日本の私立大学が新聞やテレビなどのメディアを使って宣伝をしているのを見かける事が多くなった。したがって、大学の宣伝というのはすでに多くの私大が取り入れている施策なのである。もっとも現在の宣伝はあくまで受験生を集めようとする学生向けの施策であるが、これを海外の大学教員・研究者向けに行えば良い訳である。真面目に考えるべきテーマではないだろうか。

一方で意外な事にも気づく。私たちは大学の国際化というと、すぐ外国人教員比率や留学生比率が頭に浮かぶ。しかし上に書いた指標によれば、外国人教員比率や留学生比率の2つを加えても5%にしかならないのである。もちろん無視していい数値ではないが、評価尺度全体への寄与という観点からすると極めて小さな寄与しかしないことは明らかである。

大学の国際化という観点から見て、外国人教員比率や留学生比率を上げるという施策が重要である事自体は納得できる。しかし世界大学ランキングのランクを上げるという観点からは、ここに力を入れる事は正しいとは言えないのである。ここに関しては「スーパーグローバル大学構想」という政府の政策自体も正しく認識できていない。

文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援」事業の公募要領を見ても、教員や職員に占める外国人の割合を増加させる事、全学生に占める外国人留学生の割合を増やす事、などが求められる最重要施策としてあげてある。そして外部に対する宣伝に関しては、単に「外国語による情報発信等」というとって付けたような項目が小さく入っているだけである。

何度も言うようであるが、外国人教員比率や留学生比率を上げる事自体は施策として間違っている訳ではない。むしろ長期的な視点からそれぞれの大学の本当の意味での地位向上のためには重要な施策である事は確実である。

しかしながら、世界大学ランキングにおけるランクアップという短期的な目標を実現するという観点からすると、海外に対して大学の宣伝をした方が有効だという事は、ここまで書いてきた通りである。ここで問題となるのは、文科省が推進するスーパーグローバル大学構想が長期的な観点から日本の大学の国際レベルでの実力を上げる事を狙うのか、それとも短期的な観点から世界大学ランキングのランクアップを目指すのかを明確にしていない事ではないだろうか。

本構想では、補助金の額に応じて一番手のタイプAと二番手のタイプBに分けている。上記の事を明確にするためには、このような分け方ではなくてむしろ、「大学の国際化を長期的な観点から目指す大学」と「世界大学ランキングのランクアップを短期的な観点から目指す大学」の2種類に分けて補助金を支給するべきではないのだろうか。その方がよほど分かりやすいではないか。