シンガポール通信-2015年世界大学ランキング2:日本の大学はシンガポールのNTUを見習うべき!

もうひとつ前回示した世界大学ランキングに関する表やグラフを見ていて分かるのは、アジアのいくつかの大学が急速に順位を上げている事である。例えば韓国のKAISTは、2012年の94位から着実に順位を上げ2015年には52位になっている。またソウル大は、2012年に124位と100位以下だったのに、2015年には50位に順位を上げており、いずれの大学も順位で京大を抜いている。

そしてそれ以上に驚異的なのが、シンガポールのNTU(Nanyang Technological University:南洋工科大学)である。2012年には169位と全く目立たない位置にいたのが、2013年に86位といきなり100位以内に顔を出すと、その後2014年に76位、2015年に61位と京大を脅かす位置に上昇してきている。

Times Higher Educationはじめいくつかの世界大学ランキングを見ていると分かるが、大半の大学は毎年の変動が高々10位以内でありそれほど大きな変動はない。1年間で大学の評価がそれほど変わる訳ではないので、これはある意味当然とおもわれる。そのような状況の中で、NTUのこのランキングの上昇率は驚異的である。何も施策を打たない大学が、このようなランキングの急上昇をする事はあり得ないと考えられる。この事から考えられる事は以下の2つではあるまいか。

一つは、NTUが世界大学ランキングのランク上昇を狙った何らかの施策を打ったと考えられるのではないかということである。しかしながら、当時私はNUSにいたが、ランク上昇を狙ってNTUが露骨な施策をとっているという話は聞いていない。もっとも同時に、NTUが大学のトップに欧米の人間を据えた事、および欧米からの教員を多く雇用しているという話は聞いた。これは大学の国際化という意味ではNTUの評価を大きく上げる事に寄与した事は間違いない。

また企業との共同研究開発を積極的に推進しているという話も聞いた。これもまた大学が企業との連携に力を入れているか否かという意味で大学の評価を上げたことは間違いない。しかしこれだけの施策ではたして169位から61位にまで数年のうちにランクが上昇するだろうか。

これはあくまで私の推測であるが、NTUは世界大学ランキングのランク向上をいかにして実現するかを検討する専門の部署を設置したのではなかろうか。大学のトップに欧米の人間を持ってきた事、欧米からの教員を多く採用する事その事自体は、大学の国際化という意味でNTUの評価を上げる事には寄与しているであろう。しかしそれ以上に、大学のトップおよび欧米から雇用した教員に、NTUを国際レベルでことあるごとに宣伝することをさせたのではあるまいか。

世界大学ランキングでは、論文数などの定量的な評価と同時に、世界中の著名な研究者に対してそれぞれの大学に対する主観的な評価を行ってもらうことになっており、その結果が全体の評価にかなり大きく寄与している。つまり、一般的な大学の知名度というのが大きく寄与する訳である。大学のトップや欧米から雇用した教員に大学の宣伝を積極的に行ってもらう事は、この主観的な評価には大きく寄与するであろう。

NTU自体は、シンガポールではNo.2の大学であり良い教員・学生を抱えている。またキャンパスもNUSのキャンパスもしくはそれ以上の広大なものであり良い大学なのであるが、これまではNUSの陰に隠れて国際的なレベルでの知名度は高くはなかった。それが国際的なレベルで宣伝を積極的に行う事によって、その評価を上げたのではあるまいか。

またその際にNUSを比較の対象にした事も考えられる。上に述べたように NTUは実質的な内容に関してはNUSに対して劣っている訳ではない。NUSをだしにして、NUSがこれほど高いランクにいるのならNTUに対しても評価を再認識して高めてほしいというアピールの仕方もしくは宣伝活動を、世界の著名な研究者に対してしたのではあるまいか。

そしてこのことは、それなりの施策をうてば世界大学ランキングのランクを上げる事は可能だと言う事である。特に実力は持ちながら知名度が低いために国際的な評価が低くそのために世界大学ランキングでなかなか上位にこれない大学にとっては上記のNTUの施策(もちろん私の推測が混じっているが)は大変参考になるのではあるまいか。

そして実力は持ちながら知名度が低いために世界大学ランキングで上位に来れない大学というのはまさに、東大・京大を除く日本の大学の多く、特に旧帝大を中心として日本では良く知られた大学に当てはまると言っていいだろう。ちなみに100位と200位の間に位置する日本の大学は、東工大が141位、大阪大が157位、東北大が165位である。上に述べたNTUの短期間に置ける躍進ぶりを見る限り、これらの大学が世界大学ランキングの100位以内にくる事は不可能ではないと言えるだろう。

(続く)