シンガポール通信―ドローン騒動に思う

このところドローンのニュースがさわがしい。その発端は、4月22日に首相官邸の屋上でドローンが見つかったことである。これは福井県の男性が意識的に首相官邸に自分の操縦するドローンを墜落させたということで、この男性は4月25日に「威力業務妨害」の疑いで逮捕された。このドローンに搭載された容器から微量の放射能が検出され、男性が福島の砂を入れた事を認めると共に、原発再稼働に反対する意図を持ってそのような行為を行った事から、大きな話題になった訳である。

いわく「これはテロである」から始まって、「首相官邸がテロに対する防備体制が弱い」という議論になり、さらに「ドローンを使ってテロ行為を用意に行える」「ドローンは危険であるからその操縦は禁じるべきである」などという方向に議論が発展していった。テレビを見ていてもコメンテーターがこぞってドローンの規制を強化すべきという意見を述べている。見ていて少々滑稽な気分になって来た。

そもそもドローンとは何か。正式には無人航空機、英語名はUAV(Unmanned Aerial Vehicle)と呼ばれている。ドローン(Drone)はあくまで通称である。その証拠にWikipediaには日本語版でも英語版でもドローンの名でこの無人航空機を説明すると項はなくて、あくまで「無人航空機」「UAB」の項しか存在しない。

無人航空機といえば米軍が偵察用や攻撃用として遠隔から操縦する軍用無人航空機を開発しており、イラク戦争などで使われたプレデターなどが有名である。プレデターなどの実際に軍用機として使用されている無人飛行機に比較すれば、首相官邸に落下したドローンなどは言ってしまえばおもちゃに過ぎない。事実、首相官邸に落下したドローンはPhantom 2という機種で香港のメーカーが趣味用の玩具として開発・販売しており、日本でもアマゾン等で簡単に手に入るものである。

ちなみにアマゾンで調べてみると、約9万円のものからフルHDカメラ付きの20万円を越えるものまで各種の商品を売っている。玩具としては高価であるが、無線操縦の飛行機と思えばそれに類するものは同じような値段で売られている。例えば無線操縦のヘリコプターはそれこそ数千円から数十万円間で各種の商品が販売されている。数千円のものは屋内などで飛ばすだけの本当のおもちゃであるが、数十万円のものになるとカメラを付けて空撮をしたり、農薬散布装置を装着して農薬散布を行わせたりする事ができる機能を持っている。

産業用の無人ヘリコプターとしては以前からヤマハが開発した無人ヘリコプターが良く知られており、農薬の散布などで広く知られている。無人航空機の民間利用という意味ではこれが最も良く知られているものであり、その意味では軍事用を除けばこの分野で日本は技術の最先端を走ってきた訳である。

それが今頃になって業務用にはまだまだ使えるレベルに来ていないと思われるドローンの規制の話がなぜこれほど話題になるのだろう。それはこれまでは農薬散布に従事する人もしくはリモコン操縦型の飛行機やヘリコプターの愛好家などのごく限られた人たちの間のものであった無人飛行機がいわゆるドローンの出現によってだれでもが簡単に無人飛行機を購入リモコン操縦ができるようになったからであろう。

現在騒がれているドローンは、4〜8のプロペラを持っている点がこれまでの無人ヘリコプターと異なっている。多くのプロペラを持つ事によって、安価でも安定した飛行性能が得られるのであろう。それによって素人でも簡単に無人飛行機を飛ばせるようになり、それに伴い各種のトラブルが生じるようになってきたことが、これまでも存在していながらそれほど話題にならなかった無人飛行機に関していろいろと騒がれるようになった原因であろう。

(続く)