シンガポール通信−フランスのテロ事件の真の原因は何だろうか2

今回の事件に関しフランスのオランド大統領や米国のオバマ大統領が言明した「テロは許されるべきではない、従って私たちは断固としてテロに立ち向かうべきである」という言葉そのものは間違いなく正しい。そして日本の新聞やテレビの論調も、ほぼこれに足並みを揃えたものになっている。しかし日本の新聞・テレビなどを見たり聞いたりしていていつも不思議に感じるのは、なぜイスラム諸国のテロ組織が自らを犠牲にしてまでもテロ活動を行うのかということについては、明快な説明がない事である。

どうもこのような状況を見ていると、単にテロを非難するだけでは問題は解決しないのではないかと思われて来る。イスラムのテロ組織によるテロ活動は、「9.11」である意味で全世界に広く知れ渡り認識されるようになった。そしてそれ以降、イスラム諸国が欧米などを対象としてテロを行う組織の温床として考えられるようになり、テロ組織を撲滅しようとする動きが米国主導で行われて来た。

その結果、テロ組織の代表とされるアルカイダ創始者でありリーダーであったウサマ・ビン・ラディンは、2011年に米軍によって殺害された。しかしアルカイダという組織は存続を続けている。今回のパリの週刊誌本社襲撃事件でも、犯人はアルカイダと関係が深いとされている。さらに最近は、アルカイダとは別な組織であるイスラム国がその勢力を拡大している。これらをテロ組織として非難するのは易しいが、彼等がなぜテロ活動を行うのか、そしてこれにどう対処すれば良いのだろうという、掘り下げた議論があまり行われていないのではないだろうか。

もしアルカイダイスラム国という組織が、イスラム諸国の一般の人々から乖離した少数の過激なテロ集団であるに過ぎないならば、それに対しては世界の国々が協力して徹底的に殲滅作戦を行うべきである。そして米国を中心とした欧米諸国やさらにそれらと友好関係にある国々の軍隊が協力すれば、それを行うだけの力を持っていると考えられる。しかしながら、現在までその試みは行われて来ているが、成功しているとは言いがたい。
それはアルカイダイスラム国が、一般の人々から遊離した独立したテロ組織ではない事を意味しているのではないだろうか。つまりこれまでの米国を中心とした努力にも関わらずアルカイダイスラム国を倒す事に成功していないのは、これらの組織が深くイスラム諸国の一般の人々の間に根をおろしており、多くの支持者を持っている事を意味していると考えるべきではないのか。そしてテロ活動を行うのは、その中の過激な一派に過ぎないと理解すべきではないのだろうか。

そう考えると、アルカイダイスラム国を殲滅する事の難しさがわかって来る。つまりアルカイダイスラム国の中の過激なテロ組織とそれらの組織に同情的な人々の間は隔絶しているのではなくて連続しているのである。ということは、アルカイダイスラム国のテロ組織を殲滅しようとすると、イスラム諸国の多くの人々をもその対象としなければならない事を意味している。

これは結局ベトナム戦争において、北ベトナムの正規軍と北ベトナムの人民とが深く繋がっていたために、軍隊の戦力においては圧倒的な力を持っていた米軍が、結局北ベトナムを破る事が出来なかった事と同じ状況なのではないか。

やはり私たちは、アルカイダイスラム国の中の一部の過激なグループの行動とはいえ、テロ組織が自らをも犠牲にしてなぜ欧米の人々を対象にした、さらにはそれ以上にイスラム諸国の罪なき人々を対象としたテロ活動を行うのかを、もっと真剣に考える必要があるのではないだろうか。欧米人を対象としたテロならまだわかりやすいが、なぜ同胞であるイスラムの人々をテロの対象にするのだろうかというのは大きな疑問である。

こう考えるとやはり私たちは、イスラム諸国の人々の精神的バックボーンであるイスラム教やイスラム教に基づいて作られたイスラム文化を理解する必要があるのではないだろうか。そうすると、少し前に紹介した井筒俊彦氏の「イスラーム文化」はこの問題を理解するのに大きな助けになってくれると私は思っている。

(続く)