シンガポール通信−STAP細胞再び

理研STAP細胞の有無を確認するために行っていた実験を打ち切ると共に、12月19日に記者会見を開いて「STAP細胞作成の再現が出来なかった」と発表したとのニュースがネットに出ている。同時に、STAP細胞の作成成功で一躍有名になった小保方氏が理研を退職するとのニュースも出ている。

今年世間を一番騒がせたニュースであったといっていいSTAP細胞に関する久しぶりのニュースであるが、同時に今回の記者会見でSTAP細胞に関する報道はほぼ終了すると思われる。もちろんスキャンダル報道などの好きな一部の週刊誌・新聞などは、しばらくは理研を退職した小保方氏を追い回していろいろとニュース種になりそうな話を聞きだそうとするだろうが、公式レベルでは今回の理研の発表でSTAP細胞騒動は終了という事であろう。

STAP細胞作成成功の最初のニュースの際に小保方氏を持ち上げ褒めたたえたマスコミが、STAP細胞作成に関する論文に不正が見つかるや手のひらを返したように小保方氏をそして理研を非難し、また多くの人達もそれに追従して同じような動きをしたのは記憶に新しい所である。人の心の変わりやすさというのを如実に示したのが今回の騒動であろう。そしてそれは結局小保方氏の上司であった笹井氏を自殺に追い込むという結果をもたらした。

もちろん小保方氏の「STAP細胞はあります」という言明を信じて、小保方氏が理研監視の基で行った再現実験でSTAP細胞の作成が確認されるという逆転サヨナラホームランを期待していた人も多いだろう。私自身も記者会見から推測した所では小保方氏自身は誠実な研究者であるという印象を持ったので、小保方氏の再現実験においてSTAP細胞の作成成功があることを期待していた節もあるので、残念に感じる所はある。

さて今回の理研の発表であるが、予期していた通り「STAP細胞は存在しない」とは言わず「STAP細胞の存在を確認できなかった」という灰色の発表に終った。マスコミも含めて一般の人々は白黒をはっきりしてもらいたがるので、「それでは理研の再現実験によりSTAP細胞が存在しない事が証明されたのか否か」を明確化してもらいたいと思うだろう。

しかし、科学においてある現象が存在しない事を証明するのは至難の業である。(反対に存在する事を証明するには、ある特定の条件の基でその現象を再現することができればそれだけで十分である。)したがって科学的な見地からはこれは正しい発表であって、研究畑の人達に取っては何の違和感もない発表である。しかしマスコミや一般の人達に取ってはなんとも腑に落ちない説明に聞こえるだろう。

このブログでも書いたが、かって「常温核融合」という今回のSTAP細胞騒動以上に全世界を騒がせた発見があった。核融合は極めて高温・高圧化でしか実現できないというのが常識であるが、それが常温下で簡単なセッティング(具体的には電気分解程度を行うセッティング)で実現出来たというので世界的に大騒ぎになった事件である。

しかしながら、その後世界各地で常温核融合の再現実験が行われたがその大半が現象の再現が出来なかったという事で、そのうちに徐々にこの現象は科学の世界では皆に忘れ去られて行った。この場合も常温核融合現象がない事が証明された訳ではなくて、同じ条件下で再現実験をおこなってもほとんどの場合再現できないため、「常温核融合現象は現象の否定は出来ないものの、現象の再現がほとんど出来ないため現象が存在する確率は極めて低い」という結論に至ったのである。

今回のSTAP細胞の場合も同様であって、「小保方氏の主張する条件も含めて幾つかの異なる条件の基でSTAP細胞の作成実験を行ったが作成再現はできなかった。STAP細胞の存在を否定する事は出来ないが、その存在の確率は極めて低いと結論付けられる」というのが理研の出した結論であってこれは論理的に正しい結論であろう。

さて残る大きな疑問は、小保方氏の記者会見における「STAP細胞は存在します。200回以上作成に成功しました」という言明にも関わらず、彼女自身による再現実験がなぜ成功しなかったのであろうかということである。今回の記者会見には彼女自身が体調不良を理由に同席しなかったのでその辺りがまだ疑問として残っている。

これまでの経緯からすると、一本気で思い込みの激しい(と記者会見の様子などから推測される)小保方氏が、実験の過程で何らかの条件設定ミスをしていたということがもっとも考えられる事ではないだろうか。自分一人で実験を行っていた時には気付かなかったミスが、監視カメラ付きという厳しい条件の基での再現実験では、そのようなミスが入り込む余地がなく再現が出来なかったという事ではなかろうか。

とするならば、やはり小保方氏には別途記者会見を開いてもらって、今回の再現実験においてなぜSTAP細胞が作成できなかったのかを明らかにしてもらいたい所である。今回の理研の記者会見に彼女が同席しなかったのは理研側の判断によるものだろうから、ぜひとも別途記者会見を開いてもらいたいものである。

もっとも彼女の最初のSTAP細胞作成の際に条件設定ミスがあったとしても、それを彼女自身は自覚していなかっただろうから、「今回の再現実験ではいろいろと制限を課せられたためSTAP細胞は作れなかったが、STAP細胞がある事は間違いない。別に実験を継続させてくれる研究機関があればそこで再現実験を継続したい」という内容になるだろうと予測されるけれども。