シンガポール通信−衆議院総選挙で自民・公明は本当に勝利したのか?

12月14日に行われた衆議院総選挙の結果が確定した。マスコミ等では連立を組んでいる現政権の自公が勝利したと大々的に報道している。しかし本当にそうだろうか。

まず数字を見てみよう。代表的な政党に関する選挙前と選挙後の議席数は以下の通りである。

  (選挙前) (選挙後)
自民 295 —> 291
公明 31 −> 35
民主 62 —> 73
維新 42 —> 41
共産 8  —> 21

これ以外の政党はいずれも議席数を減らしており、ほとんど消滅状態なので数字はあげない。この数字を見ると、確かに自民・公明からなる現政権は合計で326と選挙前と同じ議席数を確保しており、かつそれは全議席475の2/3以上を占めている。選挙前と同じ議席数を維持しかつ安定多数を保持している訳である。これをもってマスコミは自公の勝利とうたっている訳である。

しかしながら内訳を見ると、自民は選挙前の295から4議席減らしている。公明が4議席伸ばしたので、総数として選挙前と同じ数を確保しているに過ぎない。私は11月24日付けのブログで「アベノミクスにより株価は上昇し円安は進行した。しかしこれは日銀の金融政策によるもので、それ以外のアベノミクスの成果は乏しい。今回の選挙で自公は安定多数は維持するだろうが、自民はある程度議席を減らすのではないか」と予測したが、全くその通りになった訳である。

それに対してマスコミは、アベノミクスが国民に支持されると共に野党が掲げる公約が自公の公約に比較して不明確である事から、当初自民党が300議席を確保するのではないかと予測していた。この予測は外れた訳である。その意味では自公の勝利とマスコミが大きく書き立てる事には少々違和感がある。むしろマスコミは、自民が当初300超の議席確保を予測していたのに対し、それが外れた事をはっきりと述べると共に、その理由を説明すべきではないだろうか。口を大にして予測しておきながら、予測が外れると何事もなかったかのようにそれに関しては口をつぐむというのは公平な態度とは言えない。

もう一つは民主党が選挙前の62から73と議席数を10以上伸ばしている事である。かっての政権党であり、一時は300を越す議席数を擁していたのが前回の総選挙で大幅に議席数を減らした訳であるから、とても勢力を回復したとは言えない事は事実である。民主党はまずは100議席に回復を目標にしていたようなので、それに届かなかったという事は敗北であると党内ではとられている。それはその通りだろう。第一、党首の海江田氏が落選するという有様である。

しかしながら、政権を維持していた時代の政策の迷走ぶりなどから一時は国民に愛想を尽かされたわけであるから、ゆっくりではあるが勢力を回復しつつある事は間違いないのではないか。民主党に関してもマスコミは、現状維持も困難とかたかだか60〜70の議席確保と予測していたわけなので、ここでもマスコミの予測は大きく外れている訳である。これに関してもマスコミは自らの予想が外れた事をはっきりと言うと共にその理由を述べるべきであろう。

他に注目すべき事としては、まず維新が選挙前から1議席減らしていることがあげられる。ほぼ現状維持と言っていいが、自民党も含めかって他の政党に恐怖感を抱かせるような勢いはなくなってしまったと言えるだろう。これはこのブログでも書いたが、橋下代表の慰安婦問題に関する失言によって、彼に対する信頼感と期待感が大きく後退した事が影響しているだろう。かっての勢いを取り戻すには、橋下氏が自分自身に対する国民の信頼感を取り戻す努力を行う事がまず最初に行うべき事であろう。

もう一つは次世代、生活、社民などのその他もろもろの政党がいずれも極めて少数に減少あるいは留まったことである。言い換えるとその他大勢の党はほぼ消滅状態といっていいであろう。ここに共産党が8から21に大幅に増加している事を加えると、どうも日本の議会の構成は、かっての自民党とそれに対する2大野党である社会党共産党の3つの勢力からなっていた時代に逆戻りしているような感覚を持つ。

多分、今後民主と維新は協力関係を組むであろうから、衆議院の構成は自民・公明の与党とそれに対する民主・維新の野党勢力があり、そしてそこに共産党がある程度の勢力を持って参加するという構図になるのではないか。民主党が政権を取った時期には、米国におけるような二大政党制が日本でも実現するのではないかと期待されたが、どうも現状はそのようにはなっていないようである。

将来はどうなるのだろう。現在の状況は、民主党が政権党であった際の政治の迷走ぶりによるもので、再び民主党が力を回復し将来的には二大政党制が日本でも実現するのだろうか。それとも自民と公明による与党が安定多数を維持し、それに対する安全弁としてある程度の数の反対勢力が存在するというかっての日本の議会の構図がそのまま続くのだろうか。このあたりが今後の注目すべき点であろう。

そして最後に指摘しておかなければならないのは投票率の低さである。今回の衆議院選挙の投票率は52%程度であり、戦後最低であった2012年の前回の衆議院総選挙の59%を7%も下回る投票率となっている。二人に一人は棄権している訳である(という私もシンガポールにいるため投票をしていないので大きな事は言えないが)。

これは国民の関心が大きくない事を示している。安倍首相が「今回の選挙はアベノミクスの是非を問う選挙であり、自公の勝利で国民はアベノミクス今後もを支持してくれた」といかに強弁しようとも、まずは投票率の低さが国民からするとそうは思っていない事を示している。株価が上昇したと言っても多くの国民はその恩恵にはあずかれていない。アベノミクス以外の野党の公約がいずれもぱっとしないものなので、やむを得ずアベノミクスに消極的支持は与えたもの、もっと実効的な効果を与えてほしいと国民は思っている事を、安倍首相は心に銘ずるべきである。