シンガポール通信−モーニング連載コミック 東山アキコ「メロポンだし!」終了

週間コミック雑誌「モーニング」に連載中の、東村アキコ氏の「メロポンだし」が終了した。「モーニング」は、かっては王欣太氏の「蒼天航路」、井上雄彦氏の「バガボンド」、かわぐちかいじ氏の「ジパング」、弘兼憲史氏の「島耕作シリーズ」など有名漫画家による長期連載の大型コミックが紙面を飾っており、書店のコミック雑誌棚でも他のコミック紙に比較して目立つ存在であった。

最近は、「モーニング」のこれらの大型連載コミックの多くが終了してしまい、かってに比較するとモーニングが少々つまらなくなったと感じることが多い。井上雄彦氏の「バガボンド」はまだ終了していないとはいえ、武蔵と小次郎の巌流島の決闘を前に長期休載になってしまっている。井上雄彦氏が東北大震災で大きな精神的ダメージを受けてなかなか回復できなかったということもあり、その影響がストーリーにも反映されており、武蔵が貧困に喘ぐ一寒村で村人達と一緒に米作に精を出し村の再生をはかるという、ストーリーの途中で休載中である。

やはり武蔵は、戦いに明け暮れる日々を描いた方が生き生きとして来る。村人と一緒に米作に精を出す武蔵というのは、読んでいる方も違和感があると共に面白くない。多分作家の井上雄彦氏が精神的なダメージから十分回復しておらず、かっての野獣のような武蔵を描くエネルギーが不足しているのではあるまいか。

弘兼憲史氏の「島耕作シリーズ」は、主人公島耕作が取締役・専務・社長とサラリーマンの出世階段を上り詰め、社長になりかつ最近は会長として経済団体活動に精を出すようになった様子を描く「会長島耕作」になっている。サラリーマンン出世物語として、サラリーマンには相変わらずある程度の人気は保っているようである。しかしながら係長・課長時代の敵も多かったがそれにもめげず頑張る島耕作の活躍に比較すると、60台半ばになり功成り名を遂げた島耕作からは、昔のようなエネルギーとそれに伴う魅力を感じることが少なくなった。いわば「会長島耕作」は、同じモーニング紙のうえやまとち氏の「クッキングパパ」のような、ストーリーの変化は少ないが安定した定番的なストーリーの作品になってしまった感がある。

これらのいわば大型連載コミックに比較すると小粒であるが、東村アキコ氏の「メロポンだし!」は私の好きな作品の一つであった。主人公は宇宙人の子供「メロポン」。ある日母親の宇宙船を無断で借りて芸能人なりたさに地球にやって来る。到着したのは原宿のアパートの屋上のトレーラーハウスにすんでいる「若様」と呼ばれるイケメンの便利屋のお兄さんのところ。若様はごくごく普通のというより保守的な感覚を持った青年であり、芸能界の内幕も知らずに芸能人になりたいなどというメロポンの行動をことあるごとに止めるのであるが、そんなことにくじけるメロポンではない。

劇団のオーディションに参加することから、ある小劇団とつながりが出来、劇団員の信頼を勝ち得てその劇団の大半の団員と共に退団して新しい劇団を立ち上げその劇団の団長になってしまう。そして自分でストーリを書き演出・主演をした劇がテレビプロデューサーの斉藤氏や女優の脚田平なぎさ氏の目にとまる。しかし芸能界はなかなか一本道では有名になれない世界で、テレビや映画出演をめざしたいメロポンはそこから先になかなか進めない。一方でメロポンの父親がメロポンを連れ戻しにやって来るため、芸能人になるための活動になかなか集中できない。

そこで短編映画フェスティバルに短編映画を出す事とし、自分の仲間と一緒に短編映画を作る。その映画が短編映画フェスティバルでグランプリを獲得したことから、メロポン自身のテレビや映画に出演する芸能人になるという夢がかなう。同時に短編映画を一緒に作った仲間達の多くも同じく芸能界で活躍できる地位を獲得でき、めでたしめでたしという訳である。

このストーリーが縦糸であるが、そこに数多くの出演者が横糸として絡んで来る。若様の母親で新興宗教を主催している強烈な個性を持った「正代」、正代のアシスタントをしており若様と恋仲であるがおとなしくてなかなか告白できない「真琴」、かっては映画のチョイ役をやっていて今は落ちぶれているが強がりだけは忘れない「トミー」(どうも若様の父親らしい)などが主役のメロポンを取り巻く主立った出演者である。

メロポン自身のキャラクターもそうであるが、メロポンを取り巻くこの助演陣のキャラクターがいずれもなかなか良く描けている。いわゆるキャラが立っているという状態であるが、このあたりのキャラクターの描き方が東村アキコ氏は大変うまい。関西系のお笑いのようないわゆるドタバタ喜劇に近いが、これらの助演陣のキャラクターがせめぎあいながらストーリーが進む所が、何とも言えない快感を読者に与えるのではあるまいか。

このような特徴を持ったコミックを描くのは東村アキコ氏の得意とする所のようで、「メロポンだし」の前の連載「主に泣いています」、さらにはその前の「ひまわりっ」も楽しく連載を読むことができた。ただ惜しむらくは、メロポンが中心となり短編映画作りに取りかかるあたりからストーリーの展開が加速し、ほんの数回で最後のめでたしめでたしという大団円になってしまう所がこのコミックの欠点ではあるまいか。

もちろん引き延ばせばいいというものでもないが、軽快なストーリー展開を楽しんでいると最後にあれよあれよという内にストーリーが完結して最終回になってしまうという。このあたりに対しては、読者としてはもっと楽しみたかったのにという感覚を抱くのではあるまいか。