シンガポール通信−F1の将来

シンガポールF1を観戦していて、ふとF1の将来はどうなるのだろうという考えが頭をよぎった。もちろんF1のファンであれば、眼前で繰り広げられているレースの観戦に夢中で、このような考えが浮かぶこともないだろう。しかし格別F1のファンでもない私だからこそ、レース観戦中にこのような不埒な考えが浮かんだのだろうか。

F1の魅力は何と言っても、最高速度300キロのレーシングカーが轟音をたてながらサーキットを走行しつつ順位争いを行うことにあるのだろう。観戦していても、各レーシングカーのエンジンの轟音、ストレートコーナーでの最高速度、コーナーへ入る場合の急減速、さらにはコーナーから出る場合の急加速など、現在の車の技術の粋を集めたといわれるレーシングカーの走りは確かに迫力がある。

しかしながら今回のF1の観戦では、コーナーでの抜きつ抜かれつの接戦を期待していたのであるが、抜きつ抜かれつというシーンにはほとんどお目にかからなかった。後でネットなどの情報を見てみると、最近は細かい規制が決められておりマシンの性能がほぼ似通って来ているため、特に直線部分での追い抜きというのはあまり起こらないようである。

結局はレーシングカーのドライバーの力量が、レースの順位に大きく影響してくるということになる。よく知られているように、F1では1日目と2日目前半に練習走行が行われ、2日目後半に予選が行われる。そして予選において周回時間が短かった順に並んで、本戦が開始されることになっている。

速度の速いレーサーの順に並んで出発する訳であるから、単純に確率から言って、本戦でスタート時に並んだレーサーの順にフィニッシュする確率が高いことになる。もちろん当日のレーシングカーの調子によって途中でリタイアする車もあるので、下位でスタートしたレーサーが上位に食い込むことは可能であるが、優勝争いに食い込むのは困難であろう。

そのためか、最近は本戦で先頭に並んでいるレーシングカー(いわゆるポールポジション)を運転しているレーサーがそのまま優勝するということが多くなったと聞いている。事実今回のシンガポールF1でも、予選でポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンがそのまま本戦でも優勝した。

とすると、抜きつ抜かれつというレースとしての面白さは、現在のF1はあまり持っていないということになる。結局は前に述べたように、すざましいエンジンの轟音と300キロになるという最高速度で走るレーシングカーそのものを見ることに、観衆は快感を覚えていることになるのだろうか。このようなある意味でメカニカルになってしまったレースが特に欧州で人気があるというのも考えてみれば不思議なことではないだろうか。

さてこのようなF1を観戦していてF1の将来に関して2つの考えが湧いてきた。一つはF1がそのうち電気自動車で行われるようになるだろうという予測である。現在自動車業界は自動車が発明されてから最大の変革期にあると言われている。それは自動車の初期から用いられて来たガソリンエンジン(正確には本当の黎明期には蒸気エンジンが使われたことがあるが)による駆動から、モーターによる駆動へと変わりつつあるからである。

既に国内でも日産や三菱が電気自動車を売り出しているし、欧米の自動車メーカーも最近は電気自動車の実用化が盛んである。最近では米国のテスラモーターズのように、電気自動車に特化したベンチャー企業も現れて来ている。

現時点では電池容量の問題のため走行可能距離の点でガソリンエンジンに比較して劣っているが、有毒な排気ガスを排出しないなど環境にも易しい特徴を持っているため、将来はガソリンエンジンの車に取って代わることは確実視されている。

とするならば、F1レーシングカーも将来は電気自動車に取って代わることになることが予想される。事実既に電気自動車を用いた「フォーミュラE」が今年から開催され既に第1回が9月に北京で開催された。

まだ最高速度が200キロ程度でF1レーシングカーに比較して遅いこと、電池容量の関係で途中で別の車に乗り換える必要があることなど、現在のF1に比較すればレースとしての面白味に欠けるようである。そのためか北京での最初のフォーミュラEのレースもそれほど話題にはならなかったようである。しかし市販の電気自動車の技術が急速に進歩しており、現在のガソリンエンジンカーに取って代わることが予測されるということは、当然同じことがF1でも起こることが予想される。

電気自動車によるレースは現在のF1と同じ人気を維持できるだろうか。レーシングカーの性能そのものに関しては早晩現在のF1レーシングカーに追いつきさらには追い越すだろう。しかしながら現在のF1レーシングカーのもう一つの魅力であるエンジン音はどうだろう。

電気自動車の特徴の一つとして、ガソリンエンジンに比較してモーター音が極めて小さいことがあげられる。もちろんレーシングカーになればある程度の大きさのモーター音は出るだろうが、それでもガソリンエンジンに比較すると圧倒的に小さい音だろうし、さらにモーター音独特の周波数の高い音であり、ガソリンエンジンのエンジン音に比較して心地よいとは言えない。

無音のレーシングカーが高速でサーキットを駆け抜けて行く将来のF1は、果たして現在のF1と同じように熱狂的なファンを獲得できるだろうか。

(続く)