シンガポール通信−iPhone6とApple Watchは革新的かそれとも魅力的か?

アップルのiPhone 6が9月9日に発表になった。機能に関しては特段新しいものはない。前回のiPhone 5の際は、指紋認証が新しい技術の目玉として搭載されていたが、今回はそれに類するような新技術は搭載されてはいない。

いってみれば、iPhone 6iPhone 5に比較してより大きくより薄くそしてよりファッショナブルになったということであろう。韓国のメディアはこれに対してiPhone 6を極評しているらしい。いわく「iPhone 6には革新がない」とか「アップルはサムソンをまねしている」などである。しかしながら消費者は別の見方をしているようである。その証拠に今回のiPhone 6はすでに、過去最大の400万台の予約があったとのことである。

このことは何を意味しているだろうか。それはスマートフォンがすでにコモディティ化しつつあることを意味しているのではないか。消費者は自分の持っているスマートフォンが、これまでのスマートフォンや他の人のスマートフォンに対して、より優れた機能を持っていることを期待しているのではない。そうではなくて、日常使う製品として本当の意味での使いやすさやファッション性を求めているのではあるまいか。

今回のiPhone 6の予約が過去最大だったということは、使いやすさやデザインに関しては、やはりまだアップルが他社に比較して一歩先んじていることを示しているのではないか。そしてまた同時に、スマートフォンという商品が確立された商品形態として消費者に認知されたこと、何か新しい商品を求めるのならそれはスマートフォントとは別の商品の形で現れるだろうということを意味しているのであろう。

スマートフォントは別の商品という問題に対する回答として、今回アップルは腕時計型の端末であるApple Watchを発表した。次世代型のスマートフォンとしての腕時計型の端末もしくは「ウェアラブル端末」は、コンセプトとしては既にかなり以前から提唱されている。そして既存のスマートフォンの一部として、メールや通話の着信の通知、音声による通話、簡単なメッセージの送信などの機能を持った腕時計型端末は、すでにサムソンやソニーから発売されている。

それではApple Watchサムスンソニーの腕時計型端末と何かが異なるのだろうか。これに対する私の答えはYesである。サムスンソニーの腕時計型端末は、これまでの腕時計と異なる何か新しい形態の商品をめざしているようである。したがって時間表示機能という時計としての機能は、腕時計型端末の一つの機能に過ぎない。むしろ現在発表されている腕時計型端末の形態は、新しい商品としてのどのような形やデザインがいいのかを模索しているように感じられる。

それに対してApple Watchは、あくまでも従来の時計を基本としながら、そこにスマートフォンの一部の機能を代替するなどの新しい使い方を追加しようとしているようである。したがって基本的な形態はあくまで時計なのである。このアップルの姿勢は、サムスンなどの他メーカーの姿勢に比較すると保守的であるように見えるだろう。しかしこの戦略は正しいと私は思っている。

それは腕時計という商品の持つ意味と深く関わって来る。このブログでも書いたが腕時計というのはある意味で不思議な商品である。時間を見るというそれだけの目的のためにわざわざ片手に常時端末をつけているわけであるから。最近はスマートフォンで時間がわかるようになったので時計を着けない若者も増えて来たとはいえ、やはり大半の人は腕時計を着けているようである。

これは腕時計が、時間を知るための道具という範疇を越えて、いわば女性の腕輪やネックレスと同等の身につける装飾品という位置を獲得していることを意味している。男性の身につける装飾品で同じような位置付けのものとしては、ネクタイがあるだろう。ネクタイも別になくても必要ないものではあるが、ファッションアイテムとしての位置付けを確保しており、実用の観点からは不要なものではあるが男性特にビジネスマンになくてはならないものになっている。

腕時計も同様の位置付けを確保しているといえるであろう。時間を知るためだけならば、数千円の実用時計で十分であるが、数万円、数十万円そして時には数百万円の時計を人々が購入するのは、時計が時間を知るための道具以上に身につける装飾品として、そのファッション性やブランドが大きな意味を持っていることを示している。

装飾品としての位置を確立している時計に対し、それとは異なる機能を強調する腕時計型端末がその位置を取って代わろうとするのは、短時間には無理であることは明白である。その意味で時計としての機能やファッション性を基本に置きながら、そこに新たにスマートフォンの一部の機能を付加しようとするアップルのApple Watchにおける戦略は正しいものであると私には思われる。この商品は売れるであろう。そしてこの分野でもアップルが業界を先導して行くと考えられる。