シンガポール通信−ウイリアム・マクニール「戦争の世界史」

このところ、西洋と東洋の歴史の比較、特に歴史の流れの中で西洋と東洋のいずれが優位にあったかに興味を持っており、それに関連する本を見つけては読んでいる。これまで読んだ主な本としては以下のようなものがある。

ジャレド・ダイヤモンド「銃・鉄・病原菌」(上・下)
ジャレド・ダイヤモンド「文明崩壊」(上・下)
イアン・モリス「人類5万年 文明の興亡:なぜ西洋が世界を支配しているのか」(上・下)
ジョゼフ・ニーダム「中国の科学と文明」(第1巻〜第11巻)
白石隆「海の帝国」

特にイアン・モリスの上記の本は、そのサブタイトル「なぜ西洋が世界を支配しているのか」が示しているように、「社会発展指数」という定量的な指数を定義する事により、まさに西洋と東洋の優劣関係を長い歴史の中で比較してみようという意欲的な本である。

しかしながらこのブログでも書いたように、イアン・モリスが歴史学者であるが故に、彼の本の内容は事実の記述に重きを置いている。せっかく西洋と東洋の優劣を社会発展指数という定量的な指数により比較するという大変興味深いアプローチをしておきながら、歴史の事実を述べるにとどまっているのである。そしてそのために、それぞれの時代での西洋と東洋の優劣関係がなぜ生じたのかという、私が知りたい事に対して直接は答えてくれない。結果として、読んでいて面白いのであるが、反面欲求不満を感じる内容でもある。

またジョゼフ・ニーダム「中国の科学と文明」は、これまで西洋社会からは常に西洋に比較して劣っていたと考えられてきた中国の科学技術の歴史をたんねんに研究した本である。そしてそれにより、中国の科学技術の歴史が西洋に比較して劣るどころか近年まで優れていた事を示した本である。ただし日本語訳で11巻と大書であり、全部に目を通すのは、というよりも手に入れるのがなかなか大変である。

幸い京都大学の図書館に全巻揃っており、現在順次借りて読んでいる段階である。その序論である第1巻の内容に関してはこのブログでもすでに紹介した。序論では全11巻の内容がコンパクトにまとめられている。とはいいながらこれだけでは、なぜ中国の科学技術がある時期までは西洋のそれを上回っておきながら、その後進歩が停滞し西洋に追い抜かれ現在の西洋の科学技術の絶対優位の状態が生じたのかは、序論を読むだけではわからない。

現在第2巻、第3巻の思想史を読んでいる所である。第2巻、第3巻では中国の科学技術の進歩の背後にある中国の思想の歴史を記述している。中国の思想の基本となった儒教、そして儒教と同様に中国人の考え方等に大きな影響を与えた仏教と科学技術との関係が記述されており、なかなかに面白い。このブログでも紹介する予定である。

さてそれと同時にこの間帰国した際に本屋で見つけたのが、ウイリアム・マクニール「戦争の世界史」(上・下)(中公文庫)である。この本も大変に面白くて、週末等を利用して一挙に読み通した。タイトルからするとこの本は、東西の戦争の歴史を扱ったもののように見られる。そして戦争の歴史というと、それは代表的な古今の戦争を取りあげてその事実関係特に戦争を戦ったそれぞれの側の戦略や戦術を記述し、それが戦争の勝敗にいかに結びついたかという内容であるだろうと考えられやすい。

ところがそうではなくて、この本では戦争に必要な兵器や戦術等が歴史と共にどのように変って来たかが記述されている。しかも兵器の進歩はそれぞれの時代の国家、経済、科学技術と密接に関係している。その意味でこの本に記述されているのは、それぞれの時代において世界の各地域で国家、経済、科学技術がどのような状態にあったのか、そしてそれが兵器や戦術の進歩といかに関わったのかという内容になっている。その意味では、戦争という切り口に焦点を当てつつ世界の歴史の流れを見てみようというのがこの本の狙いである。

そして私が興味を持ったのは、この本が世界の歴史とは言いながら、主として西洋と中国の比較に重点をおいた記述になっている事である。そしてそれは私自身の興味とも一致する。そのことがこの本を本屋で見つけた時に、すぐさま購入を決断した理由である。

この本は全10章からなるが、大変興味深いのは序論である第1章に続く第2章が「中国優位の時代:1000年〜1600年」となっていることである。つまり11世紀から16世紀終わりまでの600年間は兵器や戦術において中国が西洋に対し優位にあった事を示している。

(続く)