シンガポール通信−マレーシア機撃墜される2

今回のマレーシア航空機が撃墜された事件に関して最も痛切に思うのはやはり、私達はいまだに争いの絶えない世界に住んでいるのだという事である。ソ連邦の崩壊とそれに伴う冷戦の表向きの終了により、私達は地球上での戦争という出来事があたかも終わったかのような錯覚を持っていた。

しかしながら、その後のたとえば9.11で明らかになったように、冷戦は終わっても今度はテロとの戦いが残っていたのである。そして今回明らかになったのは、ソ連邦対西側諸国の冷戦が終了したというのはあくまで表向きであって、ソ連邦を実質的に引き継いだロシアは、かってのアメリカと並び立っていた社会主義国ソ連邦の復活をあきらめてはいないという事である。ということは冷戦は実質的にはまだ続いているのである。

しかもそれは、ロシア対米国が直接対立するのではなく、ロシアと米国を背後に支援国とした小国同士の対立関係、もしくは同じ国内の反対勢力同士の対立関係になっているのである。ロシア対米国という大国同士の敵対関係ならば、それぞれが大国でありその対応もいわゆる大人の対応であろうから、まだましだろう。ところが悪い事に、小国同士の対立さらには国内の反対勢力の対立となると、より近い関係だけに憎しみが増し、争いが血で血を洗う凄惨なものになりやすい。

まさに今回のマレーシア航空の撃墜事件は、そのような状況の基で起こったものであるといえるだろう。ウクライナの親ロシア派武装勢力は、自分たちが確保している土地の上空を通過する航空機を敵の軍関係の航空機と見なして、それが民間機か否かを十分確認する事なくやみくもに攻撃してきたのではあるまいか。現場の兵士も上空を飛行する航空機はすべて攻撃せよという命令を受けていたかもしれない。しかも手元にはロシアから手に入れた最新式のミサイルがある。そのような状況下では、現場のミサイル発射担当の兵士が誤ってミサイルを発射したというより、待ってましたとばかり発射ボタンを押した可能性があるのではなかろうか。

そして今回の事件で特徴的なのは、撃墜されたマレーシア航空機の航路と同じ航路を、東南アジアからヨーロッパへ向かう多くの航空機がとっているということである。NUSの学生や先生方の間での目下の最大の話題は、危ないのでヨーロッパへの旅行は当面取りやめようという事である。私自身も8月末にオランダへの出張を予定していたが、現在取りやめを検討している。

日本からヨーロッパへ向かう航空機はいずれもロシアの上空を飛ぶので、今回のような危険区域を飛ぶわけではない。したがって日本人で夏にヨーロッパへ旅行を計画している人たちはそれほど危機意識を持っているわけではないだろう。しかしシンガポールを含めて東南アジアの人たちに取って、今回のマレーシア機撃墜事件はまさに自分の身に降り掛かるかもしれない出来事なのである。

しかしながら、東南アジアとヨーロッパを結ぶ航空便が極めて多いと考えられるのに、どうしてこれまでこのような事件が起こらなかったのだろう。ウクライナの危険地帯の上空を飛ぶ便が多いといったが、それではどの航空会社のどの便がこの地域を飛んでいるのだろうか。そしてウクライナが危険な情勢にあるというニュースに対応して、各航空会社はそれにどう対応して来たのだろうか。

このようなニュースこそ私達が知りたいニュースであるのに、なぜかマスコミやネットではそのようなニュースは流れない。ほとんどのニュースがマレーシア航空機撃墜事件のいわば後始末の話ばかりである。これは日本のマスコミに限らず世界中のマスコミに見られる現象である。どうして、今回の時間に対応して各航空会社が安全のために航路変更を行った等のニュース(そしてそれは当然各航空会社とも行なっていると思われるが)を、大きく流さないのだろうか。

そしてもう一つの特徴的なというか腑に落ちないのは、なぜ再びマレーシア航空機かという事である。これも大きなニュースになったが、3月に同じマレーシア航空のMH370便がクアラランプールから北京に向かう途中で行方不明になり、オーストラリア東部の海上に墜落したらしいという事で現在も、捜索が行なわれている。

なぜまたも事故を起こしたのがマレーシア航空機なのだろうか。もちろん論理的にはこれは単なる偶然に生じた不幸な出来事であろう。しかしマレーシア航空が経営状態が悪化しているというニュースも加えると、単なる偶然だろうかという疑問もわいてくる。もしかしたら、ウクライナの紛争地帯の上空は危険だという事で、各航空会社はすでに少し迂回した航路を取っていたのではあるまいか。

ところがマレーシア航空は、会社の経営状態を考慮して最も経済的な航路をとるという方針を取っていたのではあるまいか。その結果としてまさに最も危険な地帯の上空を飛行することとなり、それによって親ロシア派が最近入手した最新式のミサイルの犠牲となったのではあるまいか。もちろん単なる憶測ではあるが、ありそうなことではなかろうか。