シンガポール通信―シンガポールの最近の生活雑感

シンガポールには紀伊国屋書店が進出しており、高島屋店、リャンコート店など4カ所の店舗を構えている。私がよく行くのは、同じくスーパーの明治屋も入っているリャンコート店である。土曜の午前、リャンコートの紀伊国屋で日本の新聞とコミックを買い、明治屋で1週間の食料を購入するというのが、シンガポールに来て以来6年間の毎週の習慣になっている。

この習慣そのものは変らないが、変ったのはリャンコートに行くために使う交通手段である。3月まではNUSの家族寮に住んでおり、MRT(地下鉄)やバスを使うには不便な場所にある事から、リャンコートとの往復にタクシーを利用していた。シンガポールは昼間のタクシー料金は日本に比較すると安いのであるが、それでも片道10数ドルはかかる。往復で25ドル程度である。(日本円では往復で2千円程度なので、それでも安いという事は出来るが。)

それがこのブログでも紹介したが、4月からはその家族寮を出ていわゆるコンドミニアム、日本流に言うとマンションに住む事となった。家賃は上がったが、その分シンガポール市街には近くなって、リャンコートに行くのにタクシーを使わなくてもバスやMRTでごく短時間で行けるようになった。

最も便利なのは、住んでいるコンドミニアムのすぐ前にあるバス停からバスに乗り、途中でMRTに乗り換えるというやりかたである。このやり方だと運賃はバスとMRTを足しても片道2ドル足らず、往復だと3ドル程度である。さらには家から10分たらず歩くとMRTの駅があるので、MRTを使うと片道1ドルで往復2ドルそこそこである。日本円だと往復で160〜170円というところである。何とも安い。

NUSの家族寮に住んでいた時はどこへ行くにもタクシーを利用していたので、ほとんどMRTを利用した事はなかった。バスに至っては、4月に住む場所を変えるまではまったく利用した事がなかった。いずこの国も同様であるが、バス路線というのは多い上になかなか複雑で、住み慣れた人でないと利用しづらいところがある。しかもシンガポールのバスは、時刻表というのがない。いわゆるパリの地下鉄と同様に、何分かおきにくるというやつである。時刻表がないというのは、慣れないとなかなか不安感をかき立てるものである。

私自身も最初にシンガポールでバスを利用した時はおっかなびっくりであった。しかもバスに乗り馴れていない乗客というのは、そのそぶりから明確に周りの乗客にわかってしまうものである。そうするとまわりの乗客の好奇心をあおり、彼等の視線が注がれる事になる。旅行客だとそれが当然なので特に気にする事はないし、むしろ周りの乗客から好奇の目が注がれる事にある種の優越感を抱いたりすることにもつながる。

その点、シンガポールに住んでいながらバスにほとんど乗らないというのは、ある意味特殊な状況なので、なかなかそのような状況になじむのは大変で、最初の頃は乗っている間極めて居心地の悪い思いをしたものである。しかし人間というのは慣れるもので、数日乗っているとすぐに慣れてしまう。最近では、どのような乗客が乗っているのか等と、乗っている人々を眺めたり、大半の乗客がスマートフォンに釘付けになっている様子を観察する余裕が出て来た。人間の適応力というのも大したものである。

さて紀伊国屋で購入する新聞であるが、以前は日本の新聞をたまに読むと懐かしい感じがしたもので、土曜日に日本の新聞を購入してじっくりと読むのを楽しみにしていた。しかしながらこのブログでも書いたが、最近はタイムリーな記事に関してはネットでリアルタイムで知る事が出来るため、それほど新鮮味を感じなくなった。紀伊国屋に出かけても新聞を買わないこともしばしば出てくるようになった。(これは私がファンである阪神タイガースの調子が最近よくないため、さらには日本のサッカーチームが早々と敗退してしまったため、スポーツ欄を読む気がしないという別の理由にもよるが。)

ネット上のニュースで十分という事は、将来的には紙の新聞は消滅するのだろうか。そのような議論をしている評論家もいる。しかしながら、新聞社がネット上に提供しているニュースも、現在の所は紙の新聞を出版するために作り上げられた記者や編集部というシステムの上に成り立っている。紙の新聞の売り上げが減る事はそのシステムを弱体化させるため、結局はネット上の記事のレベルを下げる事にもなるのである。この辺りのビジネスモデルが今後どうなって行くのかは興味深い。

さて紀伊国屋であるが、基本的には国内の書店と似たような品揃えである。もちろん地元のシンガポール人やシンガポールに住んでいる欧米人の客も対象にしているので、英書と和書が半分ずつというフロア構成になっている。その分和書の品揃えも、国内の大型書店に比較するとある程度貧弱なのは否めない。

興味深いのは和書でも、シンガポールに関わる書籍は目立つ所においてあったり平積みになっていたりという、シンガポール独特の陳列方法をとっている事である。やはりシンガポール在住の日本人にシンガポールに関する本が売れやすいという事情があるのだろうか。最近、そのシンガポールに関係する本という事で白石隆「海の帝国」という本を見つけたので、次回はその紹介をする事にしたい。