シンガポール通信−まだまだ続くSTAP細胞狂想曲

STAP細胞騒ぎの中心人物である小保方氏がネイチャーに発表した二本の論文の取り下げに同意した事で、STAP細胞騒動は終結に向かうのかと思っていたが、まだまだ騒ぎは続きそうである。12日に理化学研究所理研)が設置した外部有識者による改革委員会が研究不正の再発防止のための提言をまとめたことが報道された。

その提言の内容は大きく二つの部分からなっている。一つは問題が起きた「発生・再生科学研究総合センター(理研CDB)」がこのような研究不正が起きる事を防止する事が出来ない構造的欠陥を持っているとして、センターの解体や新しくセンターを設置する場合はトップを更迭して体制を見直すべきとした点である。これは今回のSTAP細胞にまつわる騒動に関して、組織に責任があるということを明言した事になる。

これまでSTAP細胞問題に対する理研の対応は、小保方氏が未熟な研究者であったが故に生じたとして、小保方氏に全ての責任を押し付けようとしているように見えた。多くの人が納得いかなかったのはこの点であろう。STAP細胞の研究は、理化学研究所という組織が小保方氏という研究者を雇って研究費を支給して行った研究である。もちろん基礎研究という研究の性格上、最終責任は小保方氏の個人にあるにせよ、理研という組織もそれ相応の責任を負うべきである。

それがこれまでは、マスコミや世間がこの研究成果を絶賛している間は理研という組織を前面に出しておきながら、いざ問題が生じたとなると小保方氏という個人に責任を負わせる、いわば組織防衛の姿勢が見えたため一般の人々からは反感をかったのではないだろうか。

それを今回は、理研という組織に構造的問題があるとして組織の責任を追及した点に、これまでのこの問題に関する幾つかの委員会の発表と異なる点がある。これまでの理研の組織防衛を前面に出した対応に対して、この提言はその点で支持できるものである。その意味で社会やマスコミからの支持を得やすいであろう。

しかし同時に、もう少し大きいレベルで見た時には、この提言は組織の責任を十分に追求しているだろうかという疑問が生じる。今回の提言では理研CDBの責任を追求すると共に、研究に関わった小保方氏、およびその直接上司である笹井芳樹副センター長、さらにはセンターのトップである竹市雅俊センター長に対する個人としての責任も厳しく問うており、これらの個人に対する厳しい処分を行うよう理研に求めている。

STAP細胞が実際に存在しているか否かはまだ最終的に結論が出た訳ではないが、理研STAP細胞作成成功とそれを報じる論文がネイチャーに載った事を大々的に発表してから、現在迄のこの発表に伴う大きな騒動が生じた原因はこれら3人の研究者にある事は間違いない。

割烹着を着て研究を行う若き研究者である小保方氏が、壁をピンクや黄色に塗りムーミンのキャラクタシールが貼ってある研究室で世界的な大発見をしたというニュースは、いかにもマスコミに受けそうな舞台作りがしてある。そのような方向に話題作りの路線をひいていったのは、明らかに直接上司である笹井芳樹副センター長やセンターのトップである竹市雅俊センター長である。もちろんマスコミ向けの話題作りに安易に乗ってしまったマスコミの責任も重大であるが、基礎研究を行う研究機関のマネージャーがそのようなマスコミにこびるような姿勢を見せるという事は、本来厳に慎むべき事である。

研究の内容を厳密にチェックし正しい方向に若い研究者を導くべき研究上司が、研究の内容のチェックを怠りマスコミへの報道の仕方だけを考えたというのは、研究者としてはあるまじき態度であり、その意味で笹井芳樹副センター長や竹市雅俊センター長の責任を厳しく追及するのは当然であろう。その意味でこの提言の内容は同意できるものである。

しかし同時に、この提言を読んでいて多くの人は腑に落ちない感覚を持ったのではないか。それはこの提言が責任の範囲を理研CDBという理研内の一組織に限定しているように見える事である。もちろん提言は理研全体がこの問題を真摯に受け止め再発防止策を実行すべきであるとは述べている。しかしながら理研のトップの責任を直接は追求していない。

その事は、この提言を受けた理研のトップである野依理事長が「提言を真摯に受け止め研究不正を抑止するための実効性ある計画を策定し、早急に実行に移す」というなんだか他人事のようなコメントを出しており、自らの進退に関してはまったく触れていない事にも現れている。

今回の騒動は「世界の三大研究不正の一つ」とまで言われているようであるが、それであれば理研という組織のトップもその責任を取って辞職する程度の事はすべきではないだろうか。理研CDBを解体することは当然そこに属していた研究者の内優秀な研究者を他の組織がリクルートするいい機会となる。そうであれば、それは理研という組織の内部権力争いに過ぎない事になる。

そのような事態になる事を避けるためには、理研がトップの辞任も含めて本当の意味で真摯に対応する必要がある。マスコミや社会が理研の今後の対応をじっと見ているという事を忘れてもらっては困る。