シンガポール通信−京大が企業から高評価!

今日の日本経済新聞に、大変興味深い記事が載っている。企業の人事担当者から見た、新卒社員の出身大学のイメージ調査の結果である。この結果は、全上場企業の人事担当者を対象として新卒採用の社員に関して、「行動力」「対人力」「知力・学力」「独創性」「専門性・仕事力」の5項目で出身大学のランキングを依頼し、有効回答を寄せてくれた433社の結果に基づいて、各項目別の大学ランキングと総合の大学ランキングとしてまとめたものである。

各項目別ランキングおよび総合ランキングのトップ3を挙げると以下のようになる。
行動力 1位:国士舘大学、2位:関西学院大学、3位:明治大学
対人力 1位:福岡大学、2位:近畿大学、3位:東京都市大学
知力・学力 1位:一橋大学、2位:京都大学、3位:広島大学
独創性 1位:信州大学、2位:京都大学、3位:東京都市大学
専門性・仕事力 1位:東京工業大学、2位:上智大学、3位:東北大学
総合 1位:京都大学、2位:神戸大学、3位:大阪市立大学

この調査で最も興味深いのは、私の出身大学である京大が総合ランキングで堂々1位になっていることである。もちろん京大は、東大と並んで学生の学力ではトップクラスと見なされてはきた。しかしながら協調性・コミュニケーション力などに欠け、企業から見ると使いにくい人材だと考えられて来たというのが、一般的な印象ではないだろうか。

私の学生時代も京大は学生運動が盛んで、就職の面接の時も担当者から「君は学生運動には関係無いの?」とやんわりではあるがしつこく聞かれた事を覚えている。また就職してからも、人事担当者から「京大の出身者は変わっているからなあ」などの愚痴を聞かされたものである。それが企業の人事担当者から最も高く評価されている大学になったのである。世の中の評価も変われば変わるものだというのが、偽らざる感想である。

何が変わったのだろう。かっては官僚教育のための大学である東大に対し、体制にこびる事無く孤高である事を誇りにしていた京大の学生が、企業人に評価されるような世間よりの人間になって来たのであろうか。いやそうではないのではないか。かっては日本の学生全体が一般の社会から距離をおくという孤高の精神を誇りにしていたのが、ゆとり教育などの影響で学生全体がある意味で社会にこびるような考え方・行動をするようになったのではあるまいか。

そしてそのような中で、かっては企業では扱いにくいと考えられて来た京大の学生が、社会や企業におもねる事なく自らの考え方を持ち、独創性を発揮する人材として企業から評価されるようになったのではあるまいか。

その意味で、一般には全ての日本の大学の中でトップに君臨すると考えられている東大の学生があまり高く評価されていない事は注目に値する。上に示した総合ランキングを含めた全ての項目ランキングで、東大はトップ3には出て来ない。さらに総合ランキングでも何と25位という位置に低迷しているのである。企業人からこのような評価をされているという事を東大はよく自覚すべきであろう。世界と戦うグローバル大学になるのが東大がめざしているところであると思うが、その前に国内の企業から高く評価されないようではだめではないだろうか。

同じような意味で、総合ランキングのトップ3が京都大学神戸大学大阪市立大学といういずれも関西の大学で占められている事も興味深い。首都圏の大学の方が社会の変化に敏感であり、企業の要求に応えられる学生の教育を行っていると、一般には考えられて来た。しかし企業側の評価はそうではないのである。

この理由は多分、京大が総合ランキングトップである事と関係が深いのではないかと思われる。首都圏の大学は、日本の中心に位置しているために社会の変化、政治動向、企業の動向などに敏感であり、学生教育の内容をそれらの変化に順応させて来たのではあるまいか。

日本が世界のトップを走っていた時代はそれで良かった。日本の企業は自らの戦略に自信を持っており、それに合致した学生を採用して来た。そのような状況では当然、首都圏の大学出身の学生の方が企業から見て、扱いやすく優秀な学生に見えたのであろう。

ところが日本が世界のトップ集団から脱落し、一部では「ガラパゴス化」などと世界の動向から遅れていることが自覚され始めると、状況が変わって来たのではあるまいか。関西圏の大学は首都圏ほど政治や企業活動と密着した状況には無かったが故に、政治情勢、企業動向に振り回されることなく、必要な一般教養を学生に付ける事をめざして来たのではあるまいか。

そして変化の激しい現在においてこそ、それらの変化に対応できさらには将来を睨んだ動きが出来る学生が必要になって来たのではないか。そのような能力を「一般教養」と呼ぶならば、関西圏の学生の方が一般教養において首都圏の学生に比較して優れているのだろう。そして現在の変化の大きい時代には、企業も目先の変化に対応できる学生より、大きな変化を睨んだ対応のできる「一般教養」を持った学生を必要としているのではないだろうか。

そしてそのような状況がこの調査結果に現れているのだろう。関西圏の学生、そしてそれと共に地方の大学の学生は、この調査結果を見て自信を持っていいといえるだろう。