シンガポール通信−STAP細胞騒動終焉か?

しばらくSTAP細胞のニュースが途絶えていたので、とうとう日本でもこのニュースは飽きられたかと思っていたら、再びここ数日新聞、テレビ、ネットのニュースなどを賑わしているようである。

事は、STAP細胞騒動の中心である理研の小保方氏がネイチャーに投稿し掲載されたSTAP細胞作製成功に関する2本の論文の内、主論文の取り下げに同意したというものである。ネイチャーに掲載された論文2本の内、1本はSTAP細胞作成成功に関する主論文、もう1本は作成過程に関する詳細を述べた副論文である。

副論文に関しては、論文に間違った画像を使ったり画像に加工が加えられている事が指摘されて来たため、その取り下げには小保方氏も同意したということは、すでにニュースで流れていた。しかしながら、STAP細胞の作成成功を論じる主論文を取り下げるという事は大事件である。

STAP細胞作成成功を論じた論文は、いわばSTAP細胞という新しい作成法により作られた万能細胞の存在を主張する論文であるから、それを取り下げるという事はみずからSTAP細胞の存在を否定する事になるのではないか。

これまで小保方氏は、間違った画像を使ったり画像に加工を加えていた事に関しては認めていた。そしてそれを自分が研究者としての基本的な行動倫理を十分に学んでいなかったためとして、自分の未熟さを認めて謝罪し、今後このような事の無いようにすると弁明して来た。しかしながらSTAP細胞の存在そのものに関しては、何百回も作成に成功したとしてその存在の真実性を主張して来た。

現時点では小保方氏以外の誰もSTAP細胞の作成に成功していないのであるから、これまで何百回も作成に成功したという小保方氏自身の主張が、STAP細胞の存在に関する最後の拠り所だったのではないか。その取り下げに同意するという事は、STAP細胞が存在すると主張して来た自分の主張を取り下げる事であり、STAP細胞は存在しないと自ら言明した事になるのではないか。

これはそれまでSTAP細胞が存在すると主張してきた自分の主張を翻す事になり、別の言い方をすればこれまで自分が嘘をついていた事を認める事になる。これまで画像の誤りや画像の加工に関しては意識的にやったいわゆる「捏造」ではなくて、不注意による誤りであると小保方氏は主張して来た。しかしSTAP細胞の存在を主張する主論文を取り下げるという事は、STAP細胞が存在しない事を認める事に等しいわけで、言い換えるとSTAP細胞が捏造だったということを認める事になる。これは大変な事である。

小保方氏の弁護士によると、彼女は主論文の取り下げに同意した事に対して「本意ではない」といっているという。これもまた奇妙な論理である。自らの正当性を主張する最後の拠り所を本意ではないのに取り消すという行為こそ、研究者としてやっては行けない研究者倫理に反する行為ではないか。

現在理研ではSTAP細胞製作を再現する実験が行われているという。この再現実験がなかなかうまくいかないので、小保方氏に参加してもらい彼女の経験やノウハウを生かすという事に関しても検討されているという。

小保方氏の弁護士の主張によれば、この再現実験に参加するために主論文の取り下げに応じざるを得ないため、本意ではないが取り下げに同意したということである。これには全く同意できない。

STAP細胞作成成功を報じる論文の取り下げに同意するという事と、STAP細胞の再現実験に参加するという事は全く別の事柄である。小保方氏側は論文の取り下げに同意しないと再現実験に参加させないという理研からの圧力があったといい、理研側はそのような強制をしたことはないと反論して水掛け論になっているようである。しかし、事はそのような矮小な問題ではないだろう。

もし小保方氏がSTAP細胞の作成に成功した事に関して一点の疑義もないと主張したいならば、誰が何と言おうとSTAP細胞の存在を主張する主論文は取り下げるべきではない。他の共著者が全て同意したとしてもSTAP細胞そのものを作ったのは彼女だけという事になっているのだから、主張し続けるべきなのである。

そして理研で行われているSTAP細胞の再現実験に対しても、STAP細胞の作成に成功しそのノウハウを持っているのは自分だけなのだから、自分も再現実験に加えるべきであるとして堂々と主張すればいいのである。

小保方氏は4月のマスコミに対する会見ではある意味で自らの正当性を堂々と主張していたと私は思っている。ところがそれ以降の彼女の言動はどうも弱気になっているようである。彼女が雇った有能な弁護士達はどうしているのだろう。このような時にこそ論理的な観点から彼女を支えるのが弁護士の役割ではないだろうか。