シンガポール通信−「アジア化する世界」が出版されました!

私にとっては2冊目の出版である「アジア化する世界」が、東京図書出版から出版された。既にアマゾンでも取り扱っている。興味のある方はぜひ買って読んでみてください。

http://www.amazon.co.jp/アジア化する世界-ネットワークとメディアが世界をアジア化する-中津-良平/dp/4862237509

この本はこのブログでここ3年間ほど書いて来た事の中から、メディアに関して書いた事をまとめたものである。たかがブログと馬鹿にする事なかれ。3年ほど書きためていると、書籍になんとかまとめることができるのである。このブログでも何度か出版前に宣伝してきたが、もう一度宣伝させてもらいたい。

この本ではタイトルの通り、世界がアジア化しつつあるということを主張している。「アジア化」といっても何の事やらわかりにくいが、もう少し詳しくいうと、欧米人を中心に世界中の人々の行為がアジア人の行為に似て来ているという事を主張している。

こういってもまだピンと来ないかもしれない。アジア人的行為とは何かということを説明していないからである。アジア人的行為の典型的なものは携帯電話(というよりは最近はスマートフォン)を使ってメール(より正確には電子メール)を読んだり書いたりする行為である。端的に言うと、最近は歩きながらでも、電車の中でも、友達と話しながらでも、大学の講義を聴きながらでも、さらには公的なディナーの場などでも、ところかまわず携帯電話でメールをチェックしている。このような行為をさしている。

この行為がなぜアジア人的行為なのだろう。実はこの行為は、日本人を代表にアジア人の間で最初に広まり、そしてそれがその後欧米人も含めて全世界の人達の間で広まって来たものなのである。特に、インターネットを介した電子メールにアクセス出来る機能を組み込んだ携帯電話(NTTドコモiモードなど)がかなり早い時期から売り出され普及した日本において、最初に生じ、その後アジアの人たちに普及したものである。

NTTドコモによるiモードサービスの開始は2000年代前半であるから、すでに20年の歴史がある。電話にインターネット接続機能を付ける事自身は、特段進んだ技術という訳ではない。しかしながら日本以外では、携帯電話でメールを読み書きするという習慣はあまり広がらなかった。これは主として、テンキーを使って文章を入力する事の煩雑さにある。海外では、電話を使って簡単なメッセージを送るSMSが普及し、現在でもメールと並行してよく使われているが、この場合はごく短いメッセージの送受にしか使われない。

ところが日本人は器用なので、テンキーを使って文章を高速に入力する手法(いわゆる親指入力)が普及し、それに伴い携帯電話を使ったメールの送受はかなり早い時期から一般の人々の間に普及した。しかしそれとともに、上のような理由で海外ではあまり普及しなかった。その後、英文の入力に便利なようにアルファベットキーが付いた携帯電話が海外で発売され、ビジネスマンの間に普及した(カナダのリサーチ・イン・モーションBlackBerryなど)。

しかしとは言いながらごく小さいアルファベットキーを使って入力する事はやはり煩雑なので、ビジネスにどうしてもメールを送受する必要性があるビジネスマンの間にしか普及しなかったのではあるまいか。

それがアップルのiPhoneの発売を契機としたいわゆるスマートフォンの発売と普及によって状況ががらりと変わった。スマートフォンの普及に伴い、携帯電話を使ったメールの送受という行為が日本人を中心としたアジア人の間での行為にとどまらず、全世界の人達が同じような行為を始めたのである。

なぜそれまでは機能としては存在しながら、一般の人々に普及しなかった携帯電話を使ったメールの送受という行為が、スマートフォンの普及により急速に一般の人々に普及したのかというのは興味深い問題なのでまた論じる事にしたい。ともかくも携帯電話を使ったメールの送受という行為が日本人を始めとしたアジア人の間で広まり、その後欧米人を中心とした全世界の人々の間で広まったという事実が、世界がアジア化しているという事を示す一つの端的な証拠なのである。

さて携帯電話を使ったメールの送受という現象が単なる一つの現象にとどまっている限り、それはあまり一般性を持った現象ではない。しかし私は、この現象に極めてアジア人的特徴が現れているように直感的に感じた。そしていろいろと考えて行くうちに、これが公(おおやけ)と私(わたくし)いいかえれば公的なものと私的なものの区別が明確でなく、「公私混同」といわれるようにそれが混同される事の多いアジア人的行為の代表的なものではないかという事に気付いた。

これがそもそもブログでいろいろと書いて来た事を「アジア化する世界」というタイトルでメディアの利用法から見た世界の動きというかたちでまとめて本にして出版しようと考え始めたきっかけである。



「アジア化する世界」の表紙