シンガポール通信ーマレーシアにおける国際会議参加

先週火曜から木曜までマレーシアで行われた国際会議に参加して来た。この国際会議はInternational Conference on Interactive Digital Media 2013 (ICIDM2013)という名称で、人間同士や人間とコンピュータのコミュニケーションに使われるメディアの新しい技術に関するものである。いってしまえば次世代のスマートフォンFacebookなどに関する技術の研究発表を行う場であると考えてもらえればいい。

会議はマレーシアのクチン(Kuching)のホテルで行われた。通常マレーシアというと、マレー半島の南部に位置する国だと理解されている。首都クアラランプールがあるのもマレー半島のマレーシアなのでどうしてもそう思われがちであるが、実は海を隔てたボルネオ島にもマレー半島側以上の広大な国土を有している。

しかしビジネスでもまた観光でも、ボルネオ島側のマレーシアを訪れる機会というのは、日本人にとってあまりないのが実情であろう。私も昨年クチンで開催された別の国際会議に参加した際に、ボルネオ島側のマレーシアに訪れたのが最初の経験であった。

しかも前回は1泊2日という短時間の訪問であったため、まったく観光をする時間がなかった。今回も2泊3日なので十分に観光をする時間はなかったのであるが、会議の主催者が数時間のツアーを組んでくれたので、少しはボルネオ島側のマレーシアを知る事が出来た。

マレーシアはシンガポールと同様にかってはイギリスの植民地であり、現在でもイギリス連邦加盟国である。イギリスの支配下にあったため、道路は左側通行で車は右ハンドルと日本人にとってはなじみやすい交通システムになっている。ただシンガポールと大きく異なるのは、宗教に関してはイスラム教が主流であると同時に国教であることである。

ほとんどの女性がヒジャブと呼ばれるスカーフを頭に巻いている。また、飲酒はイスラム法によって禁じられているので、夜のディナーの際にはほとんどのマレーシア人は酒を飲まない。また豚肉を食する事も禁じられているため、一緒に食事をする際にもどのレストランに行くかはある程度気を使う必要がある。

とはいいながら西アジア、中東の国々ほど厳格にイスラム教の教えを守っている訳ではない。豚肉料理を出したり酒を提供するレストランはごく普通にあるので、私たち日本人にとって不自由を感じるというわけではない。

今回の会議参加で最もうれしかったのは、久しぶりに友人のDr. Adrian Cheok(エイドリアン・チェオク)に会った事である。Adrianは数年前までは私の現在の職場であるシンガポール国立大学(NUS)に勤務していた。私をNUSに移るよう誘ってくれたのも、そしてNUS内で私を受け入れるために同僚の先生方を説得してくれたのも彼である。

Adrianはその後慶応義塾大学に移りさらに数年の後英国に移り、現在はロンドンのCity University of Londonの教授をしている。昔からメディア系の研究では常に先端というか時にはラディカルな研究を進めていた。

例えば人間と動物のコミュニケーションに大変興味を持っており、人間と鶏、人間とハムスターなどの間のコミュニケーションを可能にする技術を研究していた事がある。犬や猫ならばともかく、鶏やハムスターと人間との間での本当の意味でのコミュニケーションが可能かどうかははなはだ疑問であるが、そのような研究に何のためらいもなく手をつけるというのは彼の面目躍如といった所であった。

シンガポールは、研究に関しては堅実主義・現実主義の傾向が強く、彼の研究はなかなか理解してくれる人がいなかった。それが彼が慶応義塾にそしてさらにCity University of Londonに移った理由だろう。ともかくも現在は自由に研究が出来るとのことで、大変元気そうであった。



国際会議の前日に主立ったメンバーとの夕食会。



Adrianの招待講演。コミュニケーション技術に関するこれまでの彼の研究をまとめて説明してくれたので大変分かりやすく好評であった。



これは私の招待講演。最近IEEEの終身フェローになったので、いい機会だと思い私が1971年にNTTの研究所に勤務し始めてから現在までの私の研究歴を発表した。



Adrianと私の講演の終了後、多くの会議の参加者達と記念写真をとったところ。参加者の多くはマレーシアの大学の学生さんたちである。