シンガポール通信−2013年世界大学ランキング

このブログで日経ビジネス特集「世界のトップ大学:東大は生き残れるか」について書いたが、その後英国QS社から2013年のQS世界大学ランキングが発表になった。たまたま先週早稲田大学シンガポールに設置している研究所の方々が私の研究所に訪問され、いろいろと議論した中で世界大学ランキングの話も話題になったので、再びこの話題を取りあげる事にしたい。

まずQS世界大学ランキングの2013年の結果から、100位以内のアジアの大学を取り出した順位を示しておきたい。括弧内は2013年のランキング結果である。

シンガポール国立大学(NUS) 24位(25位)(シンガポール
香港大学::26位(24位)(香港)
東京大学:32位(30位)(日本)
香港科学技術大学:34位(33位)(香港)
京都大学:35位(35位)(日本)
ソウル大学 :35位(37位)(韓国)
香港中文大学:39位(40位)(香港)
南洋工科大学(NTU):41位(47位)(シンガポール
北京大学:46位(44位)(中国)
精華大学:48位(48位)(中国)

これを見ると、世界大学ランキングで100位以内にランキングされている大学は、アジアでは日本・香港・シンガポール・韓国・中国の4カ国である事がわかる。大学の数とランキングの位置を考慮に入れると、シンガポール・香港・日本がトップグループを形成しながらトップ争いを演じており、韓国はソウル大学がトップグループで孤軍奮闘していることがわかる。中国はそのすぐ後ろにいる二番手グループという所か。

比較的順位は安定しているようであるが、特筆すべきはNTUが猛烈に追い上げている事である。NTUは2011年には100位以下にいて、アジアにおけるトップクラスの大学とはみなされていなかった。それが突然2012年に47位にランキングをあげると、2013年には41位とさらに上昇の傾向を示している。これはシンガポールでもかなり話題になっているが、大学のトップに欧米の人間をリクルートして、海外からの人材の招聘を熱心に行なったり、企業との共同研究を熱心に行なっている事などが評価されたものと言われている。

しかしこの事は、世界大学ランキングの順位はその気になれば短期間に上昇させる事が可能である事を示している。大きな改革を行なうためには大学の規模が大きいと困難と言われているが、NTUはNUSや他のアジアのトップ大学と同様に、数万人の学生を擁する規模の総合大学である。そのような大学で短期間にランキングの順位を大幅に上昇させる事が出来たというのは、ランキングの順位の上昇もその気になれば出来るという事である。
来年もNTUの順位が上昇するようであれば、NUSとNTUが組んだシンガポールグループがアジアのトップ、その次に香港グループと日本グループ、そしてその次に中国グループという順位付けが固定化する可能性もある。もう一つ気になるのは東大の順位である。東大は2011年には25位で、大学人の間でも東大の世界の大学における順位は20位と30位の間という考え方が広まっていたのが、2012年には30位、2013年には32位と長期低落傾向にある事である。

私のブログでも書いたように、東大・京大の研究の質や学生の質は決してNUSに劣るどころかむしろ実力ではNUSより上位にあるというのが、NUSに籍を置いており東大や京大の先生方とも交流のある私の実感である。これはNUSにいる他の日本人の先生方や研究者に聞いても同じ答がかえってくる。

したがって、東大・京大は実力はあるのである。世界大学ランキングをあげるという施策を取れば、アジアトップの地位を確保する事も可能であることは確かである。もちろんそれは、日本の旧国立大の枠組みの中でそのような施策を取る事が可能かという事も含まれるので、構造的な問題をはらんではいるが。

さて早稲田大学シンガポール研究所の皆さんと話していて話題になったのは、早稲田・慶応という日本を代表する私立大学のランキングが200位あたりに低迷しているのはなぜか、そしてそれは大学内で問題になっているのかということであった。

結局ここでも話題になったのは、世界大学ランキングというのが比較的新しい概念であることである。かっては国内の大学は国内の他大学との位置関係だけに気を配っておけば良かった。それがグローバリゼーションが大学でも話題になり始め、それと共に世界大学ランキングという考え方が大学の経営の指標として取りあげられるようになって来たのである。

したがって東大・京大や早稲田・慶応も含めて国内の大多数の大学は、まだそのような考え方に十分馴染んでいない。やっとそのような議論が多くの大学の学内で始まった段階であるということらしい。もちろん私のブログで書いたように国内の全ての大学が世界大学ランキングを意識する事は必要ないであろう。日本はそれなりの規模の産業と国内マーケットを持っている。多くの大学は、別に世界大学ランキングを意識しないでも、国内マーケット向けの人材の教育を行えばいいであろう。

しかしグローバル時代に世界に伍して日本が戦って行くためには、日本の優位性を海外に誇示するための大学というのも必要であろう。旧国立大では東大・京大はその役割を担っているであろう。そして私立大学の雄である慶応・早稲田もそのような役割を持っているといっていいであろう。慶応・早稲田に対しては、現在の世界大学ランキング200位あたりという地位から抜け出して、ぜひともランキング100位以内をめざしてもらいたいものである。