シンガポール通信—シンガポールビエンナーレ2013(1)

シンガポールビエンナーレは、2年に1度開催されるシンガポール最大のアート展である。2006年に開始され、シンガポールアートミュージアム(SAM)を中心としてシンガポール中心部の複数の美術館で、10月26日から来年2月16日まで行なわれている。

シンガポールはまだ独立して50年にも満たない新しい国であり、10年ほど前までは経済的な成長と安定の実現が最優先課題であり、アートにまで目をやる余裕がなかったといっていい。私がシンガポールにやってくる少し前の6、7年前から、徐々に政府がアートを振興しようとする姿勢が明確になって来た。

私がシンガポールに来た当時は、テレビでアートの話題が出てくることはほとんどなかったと言って良いが、最近では意識的にアートに関わる話題をニュースとして取りあげようとしている姿勢が見える。シンガポールも変りつつあるのだろう。

2006年にシンガポールビエンナーレの始まった当時は、シンガポール国内におけるアーティストの活動があまり活発でなかった事もあり、欧米のアートの展示に片寄っていたといわれている。私自身も、過去のシンガポールビエンナーレに何度か足を運んだ記憶があるが、確かに地元のアーティストの作品を見た事はなかったと言って良い。

それが、今回からはシンガポールを含め東南アジアのアーティストに焦点を当てるという方針になり、ほとんどの展示品がシンガポールや近隣のマレーシア、インドネシアベトナム、フィリピン等の国々のアーティストの作品で占められている。日本や韓国から数点の作品が選ばれているとはいえ、やはり東南アジアの現代アートが中心である事は明白である。

東南アジアのアーティストの作品は、それぞれの国のローカル色が出ているのと同時に、彼等の生活や歴史さらには政治に強く結びついた作品が多い。その意味で大変わかりやすい作品が多い。一方で、欧米の現代アートに見られるような抽象度の高い作品は少ないといえるだろう。

日本のアーティストも、どちらかと言うと具象表現の方が得意なのではないだろうか。このような具象表現に片寄っているのはアジア人の特質に根ざしているのか、それとも今後は具象表現から徐々に抽象表現へと移って行くのかは、なかなか興味深い点である。

もう一つ興味深く思ったのは、来場者の数が大幅に増えている事である。数年前までは、美術館の外の飲食店は混雑していても、美術館内の展示会場は週末でも閑散としていたというのが通常であった。それが今回は週末に行くと、入場券を買うのにかなり並ばなければならないほどの盛況である。これは一つには、上に述べたように展示されているアート作品がわかりやすいためということがあるだろう。しかしそれと同時に、シンガポール市民のアートに対する関心が高まって来た事も示している。

とはいいながら、アートの販売を目的として毎年1月に行なわれるアート展示会アートステージシンガポールが押すな押すなの盛況である事に比較すると、そこまでの来場者の数ではない。まだまだアート作品は鑑賞の対象というよりはビジネスの対象として多くのシンガポール人にはとらえられているのであろう。



シンガポールアートミュージアム(SAM)の館長がTVの取材に対応している。シンガポールでは美術館の館長ポジションも政府の役所のポジションの一つであり、まだ若く美術関係出身ではない。いわゆるお役人である。



これはフィリピンのアーティストの絵画。フィリピンにおける戦いや人々の対立などの過去の歴史を表現している。



これはミャンマーのアーティストの作品。自分の小さかった頃の学校の風景を先生や生徒たちの彫刻として表現している。ここまで具象的だと微笑ましくなる。

(続く)