シンガポール通信ー土佐尚子のArtScience Museumにおける展示

前回のブラジル行き(結局は行けなかったけれども)と話は前後するが、私のパートナーの土佐尚子のビデオアートの展示がシンガポール、マリーナ・ベイ・サンズにあるアート・サイエンス・ミュージアムで10月12日から3ヶ月行われることとなり、そのオープニングパーティを10月11日に展示会場で行った。

マリーナ・ベイ・サンズは、3つのホテルを屋上の舟形の構造(主としてホテルのプールに使われている)でつないだ独特の形でよく知られている。またその側にあるアート・サイエンス・ミュージアムは、これもまた蓮の花の形をした独特の形でよく知られている。

このミュージアムがある意味シンガポールのアイコンの一つになっているため、ここで展示会を行いたいというのが土佐のかねてからの希望であった。私の勤務先のNUSにミュージアムのキュレーターと知り合いの先生がおり、その先生を介してキュレーターに紹介してもらったところ、話がトントン拍子に進み、10月から3ヶ月彼女の新作のビデオアートが同ミュージアムで展示されることとなった。

せっかく展示をおこなうのであればオープニングパーティを行いたいというのが、これも土佐の希望である。パーティは金がかかる事もあり私としてはあまり気が進まなかったが、土佐のアート作品の売り上げにもつながる可能性があると説得されてしまい、招待客を100人程度に絞るということにして行う事とした。

パーティを行う時に最初に重要なのは誰を招待するかである。これはミュージアム側が持っている招待者名簿からこの展示に適した人達を招待するというのが一つの方策である。同時に私や土佐がこれまでシンガポールで築いて来た人脈を利用して適切な人達を招待するのがもう一つの方策である。

ところで問題は何人程度が来るかが読みにくいという事にある。結婚式などと異なってアート展示のオープニングパーティとなると出席の返事を出しておきながら来ない人が多いのは常識である。上の二つのルートで出した招待状に対しては約100人ほどから出席の返事がきた。ところが、出席の返事を出した人の半分もくればいい方だなどと脅かされたものなので、50人では少々寂しいし、あと50人をどうして埋めるかを考えようということになった。

結論として、Facebookにオープニングパーティの情報を出そうという事になった。最近はやりのソーシャルネットワーク(SN)の力を借りようと言う訳である。私自身は、SNは人間同士のゆるやかなつながりをサポートするツールであり、オープニングパーティなどの現実空間の出来事への招待にはあまり有効ではないのではと考えていた。ところがこれが大間違いで、Facebookに情報を出してから2週間で200人以上の人から出席するとの返事が来た。

私はこの時点でもまだFacebookの力に懐疑的で、まあ1/3か1/4がくればいい方だろう、メールによる招待状による出席者と合わせると100人程度になるので、ちょうど適切な出席者数になるだろうと楽観的に考えていた。

ところが、オープニングパーティの当日は会場への入場の時間になると受付で参加者の長蛇の列ができて、たちまち当初予定の参加人数の100人を越えてしまった。我々もミュージアム側も大慌て。食べ物やドリンクは100人分しか用意していない。ミュージアム側は食べ物やドリンクが行き渡らないと苦情を言う人が出てくる事を恐れている。かといってすでに受付に来て並んでいる人を追い返すわけにはいかない。

というわけで、Tシャツ・短パンなどのミュージアムにふさわしくない服装をした人をのぞくと来た人は原則としてパーティに参加してもらう事とした。結果として200名以上の人がオープニングパーティに参加してくれた。そしてこのうちの150人もしくはそれ以上はFacebookの情報を見て来てくれた人であった。

これはこれで大変結構な事であるが、同時に私としてはFacebookの力を実感した機会であった。せっせと個別の人に数百枚送った招待状に応じて来てくれた人が約50人、それに対して単にFacebook上にイベントとして乗せておく事によって来てくれた人が150人以上。それはFacebookの力を示している。

しかし同時に問題なのは、自分のネットワークを利用して発送する招待状に応じて来てくれる客がそれなりのアートに対する興味を持っており、アート作品の購入者になってくれる可能性も見込めるのに対し、Facebookを見て来てくれる客はどの程度の興味を持っているか不明であり、ましてや購入してくれる可能性は全くわからないという点である。イベントなどに客を呼び込むための手段としてどうFacebookに代表されるSNを利用するかは今後の課題だろう。



オープニングパーティ前日の展示会場でのセッティングの様子。



今回は土佐さんのビデオアートのバックの音楽を担当してくれたジャズトランぺッターの近藤敏則さんに来てもらい、ビデオアートに合わせてライブ演奏を行ってもらう事とした。近藤さんによるリハーサル演奏。



セッティング・リハーサル終了後、関係者で翌日のオープニングパーティの成功を祈って食事会。



オープニングパーティの当日。6時半開演であるが、6時にはすでに客が列をなしはじめている。



6時半の開演直前には、会場前のロビーは既に人で一杯。



土佐さんのアーティストトーク。会場を暗くしているため、しゃべっている本人の場所がはっきりしない。



これは土佐さんのビデオアートと近藤敏則氏のライブパフォーマンスの競演。